猫の腎臓病とリンの管理|食事・リン吸着剤の使い方

猫の腎臓病でリンが高いといわれたら、まず食事内容と実際に食べている量を確認します。食事だけでは目標まで下がらない場合に、リン吸着剤を組み合わせます。
大切なのは、リンをできるだけ低くすることではなく、十分に食べながら、その猫に合う範囲へ調整することです。カルシウムや体重、便の状態も一緒に確認します。
リンが高くても、見た目では分かりません
慢性腎臓病の猫では、水をよく飲む、尿が増える、体重が減る、食欲や元気が落ちるといった変化がみられます。ただし、初期には目立つ症状がないこともあります。これらの変化はリンの上昇だけで起こるものではなく、脱水、吐き気、貧血などが重なっている場合があります。[1]
「食べないからリンが高いはず」「元気だからリンの検査は不要」とは判断できません。食欲が落ちた猫に吸着剤だけを増やすのではなく、診察で原因を確認する必要があります。
食べない・吐くときは早めにご連絡ください
ほとんど食べない、繰り返し吐く、ぐったりしている場合は、当日中に病院へ連絡してください。呼吸が苦しい、倒れる、尿が出ない場合は緊急性があります。LINEの返信や翌日の予約を待たず、診療可能な動物病院へご連絡ください。
腎臓病でリンを管理する理由
リンは骨や細胞の働きに必要な栄養素です。一方、腎機能が低下すると、余分なリンを尿へ排泄しにくくなります。食事から入る量と排泄できる量のバランスが崩れるため、慢性腎臓病ではリンの摂取量を調整します。[2]
体はホルモンの働きでリンのバランスを保とうとするため、血液のリン値が検査機関の基準範囲内でも、管理を検討することがあります。「検査票に異常の印がないこと」と「その猫の腎臓病に適した管理状態であること」は、同じではありません。[3,4]
リンの数値と管理目標
検査票では、リンは「P」「PHOS」「無機リン」などと表示されます。下の表は、2026年のiCatCareガイドラインに示された、慢性腎臓病の病期ごとの血清リン管理目標です。[3]

画像の数値を文字で確認する
| IRIS病期 | 血清リンの目標 |
|---|---|
| ステージ2 | 2.5〜4.5 mg/dL |
| ステージ3 | 2.5〜5.0 mg/dL |
| ステージ4 | 2.5〜6.0 mg/dL |
これはリンの値から病期を判定する表ではありません。IRISステージは、慢性腎臓病と診断したうえで、脱水などを補正し、状態が安定しているときのクレアチニンやSDMAなどから評価します。リンが5.0 mg/dLだからステージ3、という意味ではありません。[3,4]
資料によって数値の表現には差があります。IRISの2023年治療推奨では、ステージ2は4.6 mg/dL未満、3は5.0未満、4は6.0未満が目安で、下限は約2.7 mg/dLに注意する記載です。本記事の図は2026 iCatCareの表記に統一しています。境界のわずかな差だけで薬を変更せず、推移と全身状態を合わせて判断します。[3,4]
カルシウムも一緒に確認します
リンを調整するときは、カルシウムの上昇にも注意します。必要に応じて、血液中で実際に作用している「イオン化カルシウム」を測定します。リンの値だけを目標にして、食欲や栄養状態、ほかの検査値を置き去りにしないことが大切です。[3]
食事療法には、どのようなデータがある?
腎臓病用療法食は、リンだけでなく、たんぱく質の量や質、エネルギー、脂肪酸などを調整した食事です。単に肉を減らしたり、ご飯や野菜で薄めたりする方法とは異なります。[2]
Rossらの2006年の無作為化比較試験では、ステージ2〜3の慢性腎臓病の猫45頭を、成猫用の維持食23頭と腎臓病用療法食22頭に分け、最長24か月観察しました。尿毒症のエピソードは維持食群6頭、療法食群0頭、腎臓病に関連する死亡は維持食群5頭、療法食群0頭でした。[2,5]

この結果は療法食全体を比較したものです。リンだけを減らした効果や、リン吸着剤単独の効果を示す試験ではありません。限られた頭数での研究であり、0件という結果も「必ず防げる」という保証ではありません。[5]
食べられることを優先して切り替えます
療法食への切り替えは、食欲が保たれている時期に少しずつ進めます。ウェット・ドライ、香り、食感、温度など、食べやすい条件を探します。療法食を食べさせるために、食べ慣れた食事をすべて取り上げて空腹を我慢させる方法は避けてください。[1]
食べられない場合は、吐き気や便秘などの治療、別の食事、吸着剤の併用を相談します。詳しい切り替え方は、猫が腎臓病の療法食を食べないときの記事をご覧ください。
リン吸着剤が必要になるとき
リン吸着剤は、消化管の中で食事由来のリンと結合し、体への吸収を減らすために使います。腎臓を再生したり、すでに血液中にあるリンを直接取り除いたりする薬ではありません。[6]
一般には、療法食での管理を始めてから検査値を確認し、食事だけでは目標へ届かない場合に追加します。腎臓病の進行度や食事の受け入れ方によっては、導入の時期や方法を個別に調整します。[2,4]
食事と一緒に使うことが基本です
処方された1日量を食事の回数に合わせて分け、食事に混ぜるなど、製剤の指示に従って与えます。食事と無関係な時間にまとめて与えると、食事中のリンに十分作用しないことがあります。[6]
食べ残した日は、実際に取り込めた薬の量も分かりにくくなります。自己判断で追加せず、食べた量と残した量を病院へ伝えてください。少量ずつ何度も食べる猫では、その習慣に合わせて使い方を相談します。
成分によって注意点が異なります
カルシウムを含む製剤
炭酸カルシウムなど。リンの吸収を減らす一方で、高カルシウム血症に注意が必要です。もともとカルシウムが高い猫では、別の選択肢を検討します。[6]
アルミニウムを含む製剤
水酸化アルミニウムなど。便秘に注意します。長期使用や用量の増加では、成分の蓄積・毒性にも配慮して経過を確認します。[4,6]
ランタンを含む製剤
炭酸ランタンなど。カルシウムを含まない選択肢ですが、嘔吐などの消化器症状に注意します。「カルシウムが入っていないから副作用がない」とは限りません。[6]
製剤によって成分、濃度、嗜好性、国内での承認・流通状況が異なります。同じ「1杯」「1包」でも同じ作用ではないため、製品名だけで置き換えたり、複数のサプリメントを重ねたりしないでください。併用薬を含めて獣医師が選択します。
自宅で見たいこと・再診で確認すること
- 食事:商品名、与えた量、実際に食べた量、おやつの内容。
- 薬:製品名と指示量、食べ残し、使いにくさ。
- 体調:体重、食欲、嘔吐、便の硬さ・回数、元気の変化。
食事や吸着剤を変えた後は、血液検査でリンとカルシウムを確認します。IRISでは安定するまで4〜6週間ごとの確認が目安として示されていますが、食欲低下や嘔吐などがあれば予定日を待ちません。[4]
写真に撮った食事のパッケージ、薬やサプリメントの現物、過去の検査結果をお持ちいただくと相談が進めやすくなります。再診では「数値が下がったか」に加え、無理なく食べられているかも一緒に確認します。
よくあるご質問
リンが正常なら、吸着剤はいりませんか?
検査票の基準範囲だけでは決めません。病期に応じた目標、これまでの推移、食事内容、カルシウムなどを合わせて判断します。すでに治療中なら、薬が効いて値が落ち着いている可能性もあります。[3,4]
吸着剤があれば、好きな食事だけでよいですか?
吸着できるリンの量には限界があります。リンの多い食事を薬だけで補う方法では、十分に管理できないことがあります。食べられる食事を確保しながら、食事と薬を組み合わせます。[2]
皮下点滴をしていれば、リンの管理は不要ですか?
水分管理と食事・リン管理は、それぞれ目的が異なります。点滴をしていることだけを理由に、食事療法や必要な薬を中止しないでください。点滴の必要性は、猫の腎臓病と皮下点滴の記事で解説しています。[1,4]
食べる楽しみを守りながら管理します
国分寺ハートアニマルクリニックでは、猫の食欲や暮らし方、ご家族が続けやすい方法を大切にしながら治療を相談します。国分寺・小平・小金井周辺で、腎臓病のリンの数値や吸着剤についてお悩みの方はご相談ください。
参考文献・医学情報
医学情報確認日:2026年11月1日
監修:国分寺ハートアニマルクリニック 院長・獣医師 牛尾 俊之
- Cornell Feline Health Center. Chronic Kidney Disease. 2025年更新.
- Quimby J, Ross S. Diets for Cats with Chronic Kidney Disease (CKD). IRIS.
- Taylor S, et al. 2026 iCatCare consensus guidelines on the diagnosis and management of chronic kidney disease in cats. J Feline Med Surg. 2026;28(9). doi:10.1177/1098612X261466553.
- IRIS. Treatment Recommendations for CKD in Cats. 2023改訂.
- Ross SJ, et al. Clinical evaluation of dietary modification for treatment of spontaneous chronic kidney disease in cats. JAVMA. 2006;229:949–957. doi:10.2460/javma.229.6.949.
- Sparkes AH, et al. ISFM Consensus Guidelines on the Diagnosis and Management of Feline Chronic Kidney Disease. J Feline Med Surg. 2016;18:219–239. doi:10.1177/1098612X16631234.
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