猫の腎臓病と皮下点滴|必要な場合・メリットと注意点

皮下点滴は、必要な猫の水分不足を補う治療です。慢性腎臓病と診断されたすべての猫に必要なわけではなく、脱水の有無、飲食、尿量、心臓の状態などを見ながら判断します。腎臓の数値だけで量や回数を増やさないことが大切です。[1,2]
こんな変化があればご相談ください
食べる量が減った、元気がない、吐く、体重が減った、飲水や尿の量が変わった。このような変化は、慢性腎臓病の猫で治療を見直すきっかけになります。ただし、すべてが脱水によるものではありません。
吐き気、口の痛み、便秘、貧血、電解質の異常、ほかの病気などでも食欲は低下します。「食べないから点滴を増やす」と決める前に、原因を確認しましょう。[1]
なぜ腎臓病で脱水しやすくなるのでしょうか
慢性腎臓病(CKD:chronic kidney disease)では、尿を濃くして水分を体内に保つ働きが低下することがあります。尿から失う水分に、飲水や食事から取る水分が追いつかないと脱水につながります。よく水を飲んでいても、十分に補えているとは限りません。
皮膚の戻り方や歯ぐきの湿り気は参考になりますが、高齢や痩せなどの影響も受けます。家庭で皮膚をつまんだ結果だけで、脱水の程度や必要な点滴量を判断しないでください。[1,2]
受診を急ぐサイン
すぐに病院へ連絡
口を開けて呼吸する、明らかに呼吸が苦しい、倒れる、何度もいきむのに尿が出ない場合。点滴の予定があっても、先に病院へ連絡してください。LINEの返信や翌日の予約を待たず、時間外は診療可能な救急施設へご相談ください。
当日中に相談
食べない、繰り返し吐く、ぐったりしている、尿が急に少なくなった場合。自宅での補液だけで様子を見ず、受診の必要性を確認してください。
IRISステージは、どの数値で判断しますか?
国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS:International Renal Interest Society)のステージは、慢性腎臓病の重症度を整理し、治療と経過観察に役立てる分類です。クレアチニンと、腎臓のろ過機能を評価する指標であるSDMA(対称性ジメチルアルギニン)を用います。[5]

IRIS 2026年版の猫の基準。クレアチニン:1は1.6未満、2は1.6~2.8、3は2.9~5.0、4は5.0超(mg/dL)。SDMA:1は18未満、2は18~25、3は26~38、4は38超(µg/dL)。[5]
この表だけで腎臓病を診断することはできません。慢性腎臓病と診断した後、脱水のない安定した状態で、原則として複数回の測定をもとに評価します。数値が低い健康な猫を「ステージ1」と呼ぶわけではなく、腎臓病を裏付ける所見が必要です。
筋肉量が少ない猫ではクレアチニンが低めになることもあります。両検査が異なるステージを示す場合は、再検査などで確認します。尿蛋白と血圧も別に評価し、治療方針に反映します。急性腎障害や尿路閉塞による急な数値上昇を、この表だけで分類しないでください。[5]
ステージと予後:研究データの読み方
病期は予後を考える材料の一つです。以下は猫211頭を対象にした2008年発表の後ろ向き研究から、診断時の分類別の生存期間中央値を示したものです。中央値は平均値とは異なり、生存解析で生存割合が50%となる時点の推定値です。[6]

出典:Boydら(2008)、Table 1。IIb:78頭、1,151日(95%信頼区間1,014~1,565日);III:69頭、778日(445~910日);IV:64頭、103日(37~216日)。他の研究や脱水補正後の分類の値は混ぜていません。[6]
この研究のIIbはクレアチニンが2.3 mg/dL超~2.8 mg/dLの群で、現在のステージ2全体ではありません。2000~2002年の診療例に基づくデータで、診断時と脱水補正後の分類は一致しない場合があります。また、腎臓病による死亡・安楽死を扱い、腎臓病以外の死亡は解析上の打ち切りとしています。[6]
このグラフは、その猫の余命を決めるものでも、点滴による延命効果を証明するものでもありません。実際の見通しは、体調、併存疾患、治療への反応、検査値の推移を合わせて考えます。ステージの数字だけで治療を諦めたり、点滴を増やしたりせず、今できる管理を相談しましょう。
皮下点滴と静脈点滴の違い
皮下補液(皮下点滴)は、皮膚の下に輸液を入れ、時間をかけて吸収させる方法です。状態が安定している猫で、水分摂取だけでは補えない脱水への対応として検討します。皮下に入れた液がその場で一時的なふくらみになることがあります。
静脈内輸液(静脈点滴)は、血管に留置したカテーテルから輸液を投与します。循環の異常や重い脱水、急な悪化などでは、入院下での静脈内輸液と監視が必要になる場合があります。皮下点滴は、ショックなどの緊急治療の代わりにはなりません。[2]
皮下点滴を検討する前に確認すること
診察では、体重とその推移、脱水や循環の状態、食事・飲水、尿量、呼吸を確認します。血液検査では腎機能の指標に加え、カリウムなどの電解質や貧血を評価し、必要に応じて尿検査、血圧、画像検査を組み合わせます。
国際的な輸液ガイドラインでも、脱水のない動物への皮下補液に有益性を示す根拠はなく、漫然と処方しないよう注意しています。点滴を続ける場合も、開始時と同じ量を永久に続けるのではなく、体調と治療への反応を見直します。[2]
期待するメリットと、点滴の限界
脱水がある猫では、水分状態を改善し、体調を支えることが期待できます。在宅で行える場合は通院の負担を減らせることもあります。ただし、実施できるかは猫の状態とご家族の負担も含めて相談します。[1,4]
皮下点滴は失われた腎臓の組織を元に戻す治療ではありません。「老廃物を流すために多く入れる」「点滴をすれば必ず長生きする」といった説明は適切ではありません。脱水の改善と、慢性腎臓病そのものの管理を分けて考え、食事療法や吐き気への対応なども必要に応じて組み合わせます。[1,2]
心臓病がある猫では、特に慎重に判断します
輸液による水分の負担に耐えにくい猫では、肺水腫や胸水などが生じ、呼吸状態が悪化するおそれがあります。心筋症や心不全の既往がある場合、利尿薬などを使用している場合は、必ず担当獣医師に伝えてください。皮下からの投与でも、吸収された水分は体全体に影響します。[3]
心臓病があるから一律に点滴をしない、腎臓病があるから一律に増やす、という判断はできません。脱水の程度、心臓の状態、尿量、呼吸などを合わせて調整します。自己判断で点滴や利尿薬の量を変更しないでください。[2,3]
量・回数・輸液の種類は個別に決めます
同じ体重でも、食事中の水分、尿量、脱水の程度、電解質、併存疾患は異なります。インターネット上の一般的な量を、そのままご自身の猫に当てはめないでください。輸液の種類も含めて処方を受けます。
皮下補液の最適な量や頻度については、根拠が十分にそろっていない部分もあります。数値だけで固定せず、その猫の反応を確認することが重要です。前回の液が残っている、体重が急に増えた、呼吸が普段より速いなどの変化があれば、次の投与前に相談してください。[2,3]
在宅で行う場合の準備と注意点
在宅補液は、獣医師が適応を判断し、病院で手技と中止・連絡の基準を確認してから始めます。針や器具の扱い、保管、使用期限、廃棄方法も確認してください。この記事だけを見て穿刺を始めることは避けましょう。
針を刺す痛み、保定のストレス、液漏れ、皮膚の炎症や感染などが問題になることがあります。強く嫌がる場合は無理に押さえ続けず、方法を見直します。清潔な器具を使用し、針の再使用や、指示のない薬剤の混注はしないでください。通院での実施も選択肢です。[4]
点滴の前後に記録したいこと

家庭での記録:記録は治療を調整するための情報です。呼吸困難がある場合は記録より連絡・受診を優先します。[1–3]
可能なら同じ時間帯・条件で体重を測り、食事量、尿の様子、実施日時と処方された投与量を記録します。安静時や睡眠時の呼吸も、普段との違いを見る参考になります。呼吸が苦しそうなときは、数えることに時間をかけず連絡してください。
食事と水飲み場の工夫も大切です
状態が安定していれば、病気に合うウェットフードや、食事への少量の加水などを相談できます。静かな場所に新鮮な水を用意し、移動しにくい猫では休む場所の近くにも置きます。多頭飼育では、ほかの猫に遠慮せず飲める環境を整えます。[1]
急に食感を変えて食事量が減る場合は無理に続けません。嫌がる猫の口へ水を流し込むと誤嚥のおそれがあります。飲めない、飲んでも吐く場合は、水分補給の方法を病院へ相談してください。
よくあるご質問
クレアチニンが上がったら点滴を増やしますか?
数値だけでは決めません。脱水、尿量、閉塞の有無、体調などを確認し、上昇の理由を調べます。
皮下のふくらみが残っています。追加してよいですか?
吸収には個体差があります。残っているときは自己判断で重ねず、処方した病院へ確認してください。赤み、熱感、痛み、体調の変化があれば併せて伝えましょう。
点滴を嫌がる場合はどうしますか?
猫とご家族の負担を含めて治療を見直します。保定や環境の工夫、通院での実施、食事からの水分補給など、状態に合う方法をご相談ください。
その猫に必要な水分管理を一緒に考えます
国分寺・小平・小金井周辺で、猫の腎臓病や皮下点滴についてお悩みの方はご相談ください。過去の検査結果、現在の薬・点滴の内容、食事と尿量の記録があると、治療方針を整理しやすくなります。
関連記事:腎性腎不全の原因・検査・治療/尿の詰まり・漏れによる腎後性腎不全
参考文献
医学情報確認日:2026年10月27日
監修:国分寺ハートアニマルクリニック 院長・獣医師 牛尾 俊之
- Taylor S, et al. 2026 iCatCare consensus guidelines on the diagnosis and management of chronic kidney disease in cats. 2026.
- Pardo M, et al. 2024 AAHA Fluid Therapy Guidelines for Dogs and Cats. 2024.
- AAHA. Section 6: Fluid Overload. 2024.
- Cooley CM, et al. Survey of owner subcutaneous fluid practices in cats with chronic kidney disease. J Feline Med Surg. 2018. doi:10.1177/1098612X17732677.
- IRIS. IRIS Staging of CKD(Modified 2026).
- Boyd LM, et al. Survival in Cats with Naturally Occurring Chronic Kidney Disease (2000–2002). J Vet Intern Med. 2008;22:1111–1117.
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