猫の心筋症とは?肥大型心筋症だけではない猫の心臓病

前回は、猫で最もよくみられる心筋症のひとつである「肥大型心筋症(HCM)」について解説しました。

しかし、猫の心筋症はHCMだけではありません。

「心筋症」とは、心臓を動かしている筋肉である「心筋」に構造的・機能的な異常が生じる病気の総称です。

猫では、心臓超音波検査で確認される心臓の形や動きによって、いくつかのタイプに分類されます。

現在のACVIMコンセンサスでは、病気の原因を最初から決めつけるのではなく、

「心臓がどのような形や機能を示しているのか」

という「表現型」を評価する考え方が重視されています。

今回は、猫にみられる代表的な心筋症と、その違いについて解説します。

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猫の心筋症ではHCMが最も多い

過去に専門施設を受診した特発性心筋症106頭を調べた研究では、肥大型心筋症(HCM)が最も多く、次いで拘束型心筋症(RCM)、拡張型心筋症(DCM)が認められました。

猫106頭における心筋症タイプの内訳

Ferasin L, et al. J Feline Med Surg. 2003.

この研究ではHCMが57.5%と最多でした。

ただし、このグラフは1994〜2001年に一つの専門施設を受診した心筋症症例の内訳です。

「現在の猫の心筋症の57.5%がHCM」という意味ではありません。

一方、一見健康な猫780頭を調べた別の研究では、HCMの有病率は14.7%でした。猫においてHCMが比較的よくみられる心疾患であることが分かります。

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肥大型心筋症(HCM)

猫で最もよくみられる心筋症です。

主に左心室の心筋が厚くなります。

心筋が厚くなると、

「筋肉が強くなった」

ように感じるかもしれませんが、実際には心室が十分に広がりにくくなり、血液を受け入れる働きに障害が生じることがあります。

その結果、左心房への負担が増え、

左心房の拡大
肺水腫や胸水などのうっ血性心不全
動脈血栓塞栓症

などにつながることがあります。

ただし、多くのHCM猫は無症状で経過し、生涯大きな心血管イベントを起こさない猫もいます。

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拘束型心筋症(RCM)

拘束型心筋症(Restrictive Cardiomyopathy:RCM)では、心筋や心臓内部の線維化などによって心室が硬くなり、十分に広がりにくくなります。

そのため、心室の壁がHCMほど厚くなくても、左心房あるいは左右の心房が著しく拡大することがあります。

心房が大きくなると、

心不全
胸水
動脈血栓塞栓症

などのリスクも高くなります。

RCMでは心筋の厚さだけでは病気の重症度を判断できないため、心房の大きさや心臓の拡張機能を評価することが重要です。

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拡張型心筋症(DCM)

拡張型心筋症(Dilated Cardiomyopathy:DCM)では、心筋の収縮する力が低下し、心室が大きく拡張します。

HCMが「心筋が厚く、広がりにくくなる病気」であるのに対し、DCMでは、

「心臓が十分に収縮できない」

ことが大きな特徴です。

以前は猫のタウリン不足によるDCMが大きな問題となっていました。

現在では総合栄養食に必要量のタウリンが含まれるようになり、タウリン欠乏性DCMは以前より少なくなっています。

ただしDCMが疑われる場合には、食事内容の確認が非常に重要です。必要に応じて血中タウリン濃度の測定も検討します。

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不整脈原性右室心筋症(ARVC)

不整脈原性右室心筋症(ARVC)は比較的まれですが、主に右心室・右心房に異常がみられる心筋症です。

右心系が拡大したり、心臓の収縮力が低下したり、不整脈を伴うことがあります。

進行すると、

胸水
腹水
右心不全

などを起こすことがあります。

そのため心臓超音波検査に加え、心電図検査が重要になる症例もあります。

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分類できない心筋症もあります

実際の診療では、

「これは典型的なHCM」

「これは典型的なRCM」

と、すべての猫を明確に分類できるわけではありません。

複数の特徴が混在している場合もあります。

現在では、このような症例を無理に一つの病型へ当てはめるのではなく、「非特異的心筋症表現型」として、実際に認められる心臓の構造や機能を評価する考え方があります。

重要なのは病名だけではなく、

「この猫の心臓で、実際に何が起こっているのか」

を確認することです。

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「心筋が厚い=HCM」とは限りません

これは猫の心臓診療で非常に重要です。

心臓超音波検査で心筋が厚く見えても、それだけで原発性HCMと診断することはできません。

例えば、

全身性高血圧
甲状腺機能亢進症
先端巨大症
脱水

などでも、心筋が厚く見えることがあります。

そのため、中高齢猫で心筋肥厚を認めた場合には、心臓超音波検査だけでなく、

血圧測定
血液検査
甲状腺ホルモン検査

などを組み合わせて評価することがあります。

「心筋が○mmだからHCM」と数字だけで判断しないことが大切です。

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心雑音がなくても心筋症は否定できません

猫では心雑音が心筋症発見のきっかけになることがあります。

しかし、

「心雑音がある=心筋症」

でも、

「心雑音がない=心臓は正常」

でもありません。

一見健康な猫103頭を調べた研究では、聴診で心雑音を認めることによる心筋症診断の感度は31%でした。

つまり、心筋症があっても心雑音が聞こえない猫が存在します。

反対に、健康な猫でも興奮や心拍数の上昇などによって心雑音が聞こえることがあります。

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心筋症の評価で中心となる心臓超音波検査

猫の心筋症を詳しく評価するうえで、中心となるのが心臓超音波検査です。

心臓超音波検査では、

左心室の壁の厚さ
心室の大きさ
心臓の収縮・拡張
左心房・右心房の大きさ
僧帽弁の動き
左室流出路狭窄
心臓内の血流速度
血液のうっ滞
血栓の有無

などを総合的に確認します。

特に重要なのが「左心房」です。

猫の心筋症では、心筋が何mmあるかだけではなく、

「左心房にどの程度負担がかかっているか」

が、心不全や動脈血栓塞栓症のリスクを考えるうえで重要になります。ACVIMでも心筋症の表現型だけでなく、将来的な心不全や血栓症リスクを含めたステージ評価が推奨されています。

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心筋症の種類だけでは治療は決まりません

「HCMだからこの薬」

「RCMだからこの薬」

と、病名だけで治療が決まるわけではありません。

同じHCMでも、

左心房がほとんど拡大していない猫

と、

左心房が著しく拡大し、血液のうっ滞が認められる猫

では、心不全や血栓症のリスクが大きく異なります。

そのため実際の診療では、

どのタイプの心筋症なのか

だけではなく、

現在どのステージなのか
左心房は大きくなっているか
心不全の兆候はないか
血栓症のリスクは高くないか

まで評価することが大切です。

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まとめ

猫の心筋症というと「肥大型心筋症(HCM)」が最もよく知られています。

しかし実際には、

肥大型心筋症(HCM)
拘束型心筋症(RCM)
拡張型心筋症(DCM)
不整脈原性右室心筋症(ARVC)
非特異的心筋症表現型

など、さまざまな心筋症があります。

そして猫の心臓病では、

「心雑音があるか」

「心筋が厚いか」

だけで病気の有無や重症度を判断することはできません。

心臓超音波検査を中心に、心筋の形態、心臓の動き、左心房の大きさ、血流状態などを確認し、

「この猫が将来、心不全や血栓症を起こすリスクがどの程度あるのか」

まで考えていくことが重要です。

国分寺ハートアニマルクリニックでは、猫の心臓超音波検査、胸部レントゲン検査、血圧測定などを組み合わせ、心筋症の詳しい評価を行っています。

国分寺・小平・小金井周辺で、

「健康診断で心雑音を指摘された」
「心筋が厚いと言われた」
「HCMかどうか詳しく調べたい」
「猫の心筋症について詳しい検査を受けたい」

という場合にも、お気軽にご相談ください。

診断後の薬や、ご自宅での呼吸数の確認・受診目安については、「猫の肥大型心筋症(HCM)に薬は必要?呼吸数と自宅管理」で詳しく解説しています。

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参考文献

Luis Fuentes V, Abbott J, Chetboul V, et al. ACVIM consensus statement guidelines for the classification, diagnosis, and management of cardiomyopathies in cats. J Vet Intern Med. 2020;34:1062-1077. PubMed

Ferasin L, Sturgess CP, Cannon MJ, et al. Feline idiopathic cardiomyopathy: a retrospective study of 106 cats (1994-2001). J Feline Med Surg. 2003;5:151-159. PubMed

Kittleson MD, Côté E. The Feline Cardiomyopathies: 3. Cardiomyopathies other than HCM. J Feline Med Surg. 2021. PubMed

Payne JR, Brodbelt DC, Luis Fuentes V. Cardiomyopathy prevalence in 780 apparently healthy cats in rehoming centres. J Vet Cardiol. 2015;17 Suppl 1:S244-S257. PubMed

Wagner T, Fuentes VL, Payne JR, et al. Comparison of auscultatory and echocardiographic findings in healthy adult cats. J Am Vet Med Assoc. 2009. PubMed