猫の肥大型心筋症(HCM)とは?症状がなくても見つかる猫の心臓病

「健康診断で心雑音を指摘された」
「元気なのに、心臓の壁が厚いと言われた」
「猫にも心臓病があるの?」
このようなご相談をいただくことがあります。
猫の肥大型心筋症は、猫で最も代表的な心筋症のひとつです。
この病気は一般的に遺伝性の心筋疾患として説明されます。
猫の肥大型心筋症は、心臓の筋肉の病気です。
特に左心室の壁が厚くなることが特徴です。
一方で、猫のHCMは非常に経過の個体差が大きく、生涯ほとんど症状を示さない猫もいれば、うっ血性心不全、動脈血栓塞栓症、突然死などを起こす猫もいます。
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肥大型心筋症では心臓に何が起こる?
心臓には、全身へ血液を送り出す「左心室」という部屋があります。
HCMでは左心室の心筋が厚くなります。
一見すると、
「筋肉が厚いなら、心臓の力が強くなるのでは?」
と思われるかもしれません。
しかし問題になるのは、心臓が広がるときです。
心筋が厚く、硬くなることで左心室が十分に広がりにくくなり、血液を受け入れる能力が低下します。
これを「拡張機能障害」と呼びます。
その結果、左心房に負担がかかり、病気が進行すると左心房が拡大していきます。
左心房の圧力がさらに高くなると、肺水腫や胸水などの「うっ血性心不全」を起こすことがあります。PubMed
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猫のHCMは珍しい病気ではありません
猫のHCMは決して珍しい心臓病ではありません。
一つの大規模な研究では、一見健康にみえる猫780頭を心臓超音波検査したところ、14.7%にHCMが認められました。
ただし、これは特定の集団を調べた研究であり、「すべての猫の15%がHCM」という意味ではありません。
それでも、猫では比較的よく遭遇する心臓病であることが分かります。PubMed
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心雑音がなくてもHCMのことがあります
猫の心臓病で非常に重要なのがここです。
HCMの猫に心雑音が聞こえることはあります。
しかし、
「HCMなら必ず心雑音がある」
わけではありません。
反対に、猫では心臓に明らかな病気がなくても、興奮や心拍数の上昇などによって機能性の心雑音が聞こえることがあります。
つまり、
「心雑音がある=HCM」
でも、
「心雑音がない=HCMではない」
でもありません。
実際、一見健康な猫を調べた研究では心雑音自体は比較的多く認められ、その多くは機能性と判断されています。PubMed
そのため、聴診だけでHCMの有無や重症度を判断することはできません。
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どんな猫に多い?
HCMは雑種猫を含め、さまざまな猫に発症します。
遺伝的な関与も知られており、特に
メインクーン
ラグドール
では、心筋を構成するタンパク質に関係するMYBPC3遺伝子の変異とHCMとの関連が確認されています。PubMed
ただし、遺伝子検査が陰性だからHCMにならないという意味ではありません。
また、ほかの猫種や雑種猫でもHCMは発症します。
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「心臓の壁が厚い=HCM」とは限りません
ここも非常に重要です。
心臓超音波検査で左心室の壁が厚く見えても、それだけで直ちにHCMとは診断できません。
猫では、
高血圧
甲状腺機能亢進症
先端巨大症
脱水
その他の心疾患
などによって、HCMに似た心筋肥厚がみられることがあります。
そのため、特に中高齢猫では血圧測定や甲状腺ホルモン検査などを組み合わせて評価します。PubMed Central (PMC)
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HCMの診断で最も重要なのは心臓超音波検査
HCMの診断・評価の中心となるのが心臓超音波検査です。
心臓超音波では、
左心室の壁の厚さ
肥厚している場所
左心房の大きさ
心臓の拡張・収縮
僧帽弁の動き
左室流出路狭窄の有無
血流速度
血栓やモヤモヤした血流の有無
などを詳しく評価します。
一般的な体格の猫では、拡張期の左室壁厚が5mm未満であれば正常範囲、6mm以上では心筋肥厚を強く疑い、5〜6mmは判断の難しいグレーゾーンとして扱うことが推奨されています。
ただし、体重、脱水状態、心拍数などによっても壁厚は変化するため、「6mm」という数字だけで診断するものではありません。
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NT-proBNPはどう使う?
血液検査で測定できるNT-proBNPは、猫の心疾患を疑う際の補助的な検査として有用です。
しかし、
「NT-proBNPだけでHCMを確定診断する」
ことはできません。
心臓超音波検査を行うべき猫を見つけるスクリーニングや、呼吸困難の原因が心臓性なのかを判断する際の補助として使用します。PubMed
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まとめ
猫の肥大型心筋症は、
「元気だから大丈夫」
「心雑音がないから大丈夫」
とは言い切れない病気です。
一方で、HCMと診断されたすべての猫が心不全になるわけでもありません。
大切なのは、
HCMがあるかどうか
だけではなく、
左心房は大きくなっているのか
血栓症のリスクは高くないか
心不全を起こすリスクはどの程度なのか
まで評価することです。
診断後の薬や、ご自宅での呼吸数の確認・受診目安については、「猫の肥大型心筋症(HCM)に薬は必要?呼吸数と自宅管理」で詳しく解説しています。
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参考文献
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Fox PR, Keene BW, Lamb K, et al. International collaborative study to assess cardiovascular risk and evaluate long-term health in cats with preclinical hypertrophic cardiomyopathy: The REVEAL Study. J Vet Intern Med. 2018;32:930-943.
Payne JR, Brodbelt DC, Luis Fuentes V. Cardiomyopathy prevalence in 780 apparently healthy cats in rehoming centres. J Vet Cardiol. 2015.


