猫が食べない|原因・受診の目安と食欲増進剤の使い方
「猫がごはんを食べない」「おやつはなめるのに、いつものフードを残す」「食欲増進剤を使えばよくなるのでしょうか」。食事の変化は、飼い主様が気づける大切な体調のサインです。猫の食欲不振には、口の痛み、吐き気、腎臓病、便秘、環境の変化など、さまざまな原因があります。
まったく食べない、食べる量が明らかに減った場合は、その日のうちに動物病院へご相談ください。苦しそうな呼吸、ぐったりして立てない、尿が出ないなどがあれば、食事の工夫より受診を優先します。この記事では、受診の目安、原因を調べる検査、食欲増進剤の役割と副作用、家庭での対応をお伝えします。
猫が食べないときの受診の目安
緊急の受診が必要なサイン
- 口を開けて呼吸する、呼吸が苦しそう、倒れる、立てない。
- 何度も吐く、水も保てない、強い腹痛がある。
- 何度もトイレでいきむのに尿が出ない、またはほとんど出ない。
- ひもやおもちゃ、薬、ユリなどを口にした可能性がある。
- 歯ぐきが白い、皮膚や白目が黄色い、意識や反応がおかしい。
診療時間外は夜間救急へ連絡してください。尿が出ない場合の注意点は、猫のおしっこが少ないときの原因と危険なサインでも解説しています。
元気があっても当日中に相談を
まったく食べない、普段と比べて明らかに食事量が減った、体重が落ちている、よだれや口の痛みがある場合です。子猫、高齢猫、腎臓病などの持病がある猫では、早めの判断が必要です。インスリンを使っている猫が食べないときは、次の投与をどうするかも含め、速やかにかかりつけへ連絡してください。
「24時間経つまでは待ってよい」という意味ではありません。一食残しただけで、元気・飲水・排泄に変化がない場合も、次の食事で戻るかを確認し、減少が続けば相談します。「いつから、何を、どれくらい食べたか」がわかると、病院で緊急度を判断しやすくなります。

食欲低下と食べにくさの違い
フードに近づかない場合は、吐き気や全身の病気、ストレスなどが考えられます。一方、器に近づくのに食べるのをやめる、口からフードを落とす、片側で噛むといった様子では、歯や口の痛みを疑います。飲み込みにくさが関係することもあります。
口をくちゃくちゃさせる、よだれが増える、においを嗅いですぐ顔をそむける場合には、吐いていなくても吐き気があるかもしれません。食欲増進剤で食べる気持ちを促しても、痛みや吐き気が強ければ十分に食べられません。食べる場面の短い動画も診察の参考になります。
猫の食欲不振の主な原因
歯周病・口内炎など、口の痛み
口臭、よだれ、食べ方の変化を伴うことがあります。柔らかいおやつだけを食べる場合にも、単なる好みと決めつけないことが大切です。診察では口の中を確認し、必要に応じて詳しい歯科検査や治療を検討します。
胃腸の病気・膵炎・便秘・異物
嘔吐、下痢、便が出ない、お腹を触られるのを嫌がるなどが手がかりになります。猫の膵炎では、食欲低下や元気の低下だけが目立つこともあります。異物や腸の通過障害を疑うときは、薬を飲ませて様子を見る前に検査が必要です。
腎臓病・肝臓病など全身の病気
水をよく飲む、尿の量が増える、痩せる、吐くといった変化と食欲不振が重なる場合があります。慢性腎臓病の猫では、脱水や吐き気など複数の問題が食事量に影響します。腎臓病と決めつけず、口の痛みや便秘なども合わせて評価します。詳しくは、猫の慢性腎臓病の初期症状・治療と寿命の見通しをご覧ください。
ストレス・食事の変更・薬の影響
引っ越し、新しい動物、食事場所の騒音、急なフード変更などで食事が進まなくなることがあります。薬の苦味や副作用が関係することもあります。ただし、環境の変化があっても病気が同時に起きている可能性はあります。薬は自己判断で中断せず、処方した病院に相談してください。
食事不足を長引かせないために
食事不足が続くと、体重や筋肉が減り、回復に必要な栄養を確保しにくくなります。とくに太っている猫が病気やストレスで十分に食べられなくなると、肝臓に脂肪が蓄積する肝リピドーシスのリスクがあります。黄疸や嘔吐、強い元気の低下が見られることもあり、原因となった病気への対応と栄養管理が重要です。
「一日食べないと必ず脂肪肝になる」という一律の説明は正確ではありません。一方で、何日なら安全と決めて待つこともできません。以前から食事量が減っていた猫では、完全に食べなくなった日より前から栄養不足が進んでいる場合があります。
食欲不振の原因を調べる検査
まず食事の内容と量、体重の変化、飲水・排尿・排便、嘔吐、薬、生活環境を確認します。身体検査では、脱水、発熱、口の痛み、お腹の状態、筋肉の減り方などを評価します。
- 血液検査:貧血、炎症の手がかり、腎臓・肝臓の数値、血糖、電解質などを確認します。
- 尿検査:尿の濃さや糖などを確認し、血液検査と合わせて判断します。
- レントゲン・超音波検査:症状に応じて、便のたまり方、異物、消化器や内臓の変化を調べます。
- 追加検査:膵炎、甲状腺の病気、感染症などを疑う場合に、必要な項目を選びます。
すべての猫に同じ検査を行うわけではありません。年齢、症状、診察所見、これまでの病歴から、優先する検査と目的をご説明します。一つの数値だけで原因を決められない場合には、経過や追加検査が必要です。
食欲増進剤の種類と使い分け
食欲増進剤は、食べる量や体重の維持・回復を支える治療の選択肢です。原因となる病気への治療に加え、吐き気や痛み、脱水への対応、食事環境の調整と組み合わせて使用します。薬で少し食べても、必要な栄養量に届いているかを確認することが大切です。
ミルタザピン:効果と注意点
猫の食欲や体重の回復を支える薬として、ミルタザピン(mirtazapine)が用いられることがあります。海外では、猫用の経皮製剤について体重増加を評価した臨床試験があります。内服と経皮製剤では、投与方法や体内での動きが異なります。使用できる製剤や適応を確認し、猫の状態に合わせて獣医師が判断します。
注意したい変化は、鳴き声が増える、落ち着かなくなる、興奮する、震える、吐くなどです。経皮製剤では、塗った場所の赤みや刺激が起きる場合もあります。腎臓や肝臓に病気がある猫では、薬の影響が強く出る可能性に配慮が必要です。併用できない薬や注意が必要な組み合わせもあるため、サプリメントを含め、使用中のものをすべてお伝えください。
海外の製品情報は、国内での承認や当院の採用状況を示すものではありません。人用の薬や以前の残薬を自己判断で与えないでください。塗り薬を処方された場合も、塗る場所、量、手袋の使用、塗布後の接触への注意など、製品と処方に応じた説明を守ります。
カプロモレリン:グレリンの作用を利用
カプロモレリン(capromorelin)は、食欲に関係するホルモン「グレリン」の受容体に作用する薬です。米国では、猫用の経口液剤Elura(エルーラ)が、慢性腎臓病の猫の体重減少の管理を目的に承認されています。ミルタザピンとは作用が異なり、慢性腎臓病の猫を対象とした試験で体重増加が確認されています。
注意したい変化は、よだれ、嘔吐、下痢、元気の低下などです。一時的に血糖が上がったり、心拍数や血圧が下がったりすることもあります。糖尿病、心臓病、重い脱水、肝臓病がある場合は、使用の適否を慎重に判断します。先端巨大症(acromegaly:成長ホルモンが過剰になる病気)の猫には使用しません。腎臓病の治療や、吐き気・脱水への対応と併せて検討する薬です。
シプロヘプタジン:以前からの選択肢
抗ヒスタミン薬のシプロヘプタジン(cyproheptadine。商品名例:ペリアクチン)は、猫の食欲を支える目的でも用いられてきました。ただし、食欲増進についての根拠は臨床経験に基づくものが中心で、ほかの薬と効果を同じように期待できるとは限りません。効果が現れるまで数日かかる場合もあります。
主な注意点は眠気や鎮静で、かえって興奮する場合もあります。腎臓や肝臓の状態に配慮が必要で、肝リピドーシスの猫には推奨されません。ミルタザピンの作用に拮抗するため、食欲増進を目的に両者を同時に使うことは避けます。残薬を自己判断で追加せず、獣医師が適応外使用を含めて判断します。
ステロイドなどを使う場合の考え方
プレドニゾロン(prednisolone)などのステロイドで食欲が増すこともあります。ただし、血糖の上昇などに注意が必要です。食欲だけを目的に広く使うのではなく、炎症や免疫の病気など、その薬が必要な原因疾患への治療として検討します。
ジアゼパム(diazepam)にも食欲を刺激する作用はありますが、猫への内服では重い肝障害が報告されています。日常の食欲不振に対して、自宅で気軽に使う薬としては勧められません。
薬の選択では、実際の食事量、病気の種類、腎臓・肝臓・心臓の状態、併用薬、投与しやすさを合わせて判断します。海外で承認された製品の説明は、国内の承認や当院の採用状況を示すものではありません。薬の種類、量、間隔は診察時にご相談ください。
薬を使っても食べないとき
食欲増進剤を使っても食べない場合には、強い吐き気、痛み、異物、病気の進行、栄養不足などを改めて確認します。早く効かせようとして回数や量を増やすと、副作用につながるおそれがあります。食事量が戻らない、薬をやめると再び食べなくなる、副作用が疑われる場合は、処方した病院へ連絡してください。
原因への治療と栄養の支え方
吐き気がある猫には吐き気を抑える薬、痛みがある猫には鎮痛治療、脱水がある猫には状態に応じた補液などを検討します。補液の量や方法は、腎臓や心臓の状態によって調整が必要です。便秘や口の病気があれば、それぞれへの治療も行います。
自分で食べる量が足りず、改善が見込めない場合には、栄養を届けるチューブが役立つことがあります。食べることを無理に迫らず栄養を支えられる一方、設置に伴う処置、チューブの管理、感染や抜けるリスクへの対応が必要です。長く食べられなかった猫では、栄養を急に増やすことで電解質などに異常が起きることもあるため、病院で給餌量を計画し、経過を確認します。
食欲増進剤だけで十分か、入院や栄養補助が必要かは、食べられない期間、実際の摂取量、体重や筋肉の状態、原因となる病気から判断します。
受診までに自宅でできること
- 慣れたフードを少量ずつ、静かな場所で出します。ほかの動物に食事を邪魔されないようにします。
- 食べやすい浅めの器を使い、ウェットフードは熱くない程度に少し温めて香りを立たせます。
- 食事量、飲水、尿・便、嘔吐、薬を使った時刻を記録します。多頭飼育では誰がどれだけ食べたかを確認します。
- 受診時には、普段のフードの情報、最近の体重、使用中の薬をお持ちください。
嫌がる猫の口へ、食べ物や水を無理に流し込まないでください。誤って気道に入る危険や、食事への嫌悪を強めるおそれがあります。好物を探して次々とフードを変え続けることや、「お腹がすけば食べる」と長く待つことも避けます。療法食を食べない場合は、食事不足を長引かせず、代替の食事や切り替え方を病院へ相談します。
よくあるご質問
おやつは食べます。受診は必要ですか?
少しのおやつを口にしていても、必要なカロリーや栄養を確保できているとは限りません。いつもの食事が明らかに減っている、体重が落ちている、食べ方が変わった場合は相談してください。
何日くらいで食欲は戻りますか?
原因と重症度によって異なります。痛みや吐き気への治療で改善する場合もあれば、継続的な治療や栄養補助が必要な場合もあります。「何日待てば戻る」と一律に予測せず、再診の時期と、予定より早く連絡する症状を病院と確認しましょう。
腎臓病の猫にも食欲増進剤は使えますか?
状態を確認したうえで選択肢になることがあります。ただし、脱水、吐き気、便秘などへの対応も重要です。薬の種類、製剤、量や間隔は腎臓の状態や併用薬を踏まえて調整するため、自己判断で変更しないでください。
猫の食欲低下は早めにご相談ください
国分寺ハートアニマルクリニックでは、食事量や食べ方の変化を伺い、診察所見に応じた検査と治療をご相談します。「まだ少し食べているから」と迷う場合も、普段との違いをお伝えください。緊急の症状があるときは、LINEやWEB予約の返信を待たず、電話でご連絡ください。
医学情報の確認日:2026年10月7日。本記事は一般的な情報です。個々の猫の診断・処方は、診察結果に基づいて行います。
参考文献
- Taylor S, et al. 2022 ISFM Consensus Guidelines on Management of the Inappetent Hospitalised Cat. Journal of Feline Medicine and Surgery. 2022;24:614–640. 国際猫医学会のガイドライン。
- Cornell Feline Health Center. Anorexia、Hepatic Lipidosis。
- Cornell Feline Health Center. Feline Pancreatitis。
- Freeman L, et al. WSAVA Nutritional Assessment Guidelines. 2011。
- DailyMed. Mirataz(ミルタザピン経皮製剤)米国製品情報。国内の承認・採用状況を示す資料ではありません。
- FDA. FDA Approves Elura for Managing Weight Loss in Cats with Chronic Kidney Disease. 2020。猫の承認薬に関する飼い主向け情報(2026年更新)。
- Agnew W, Korman R. Pharmacological appetite stimulation: Rational choices in the inappetent cat. Journal of Feline Medicine and Surgery. 2014;16:749–756。
- Center SA, et al. Fulminant hepatic failure associated with oral administration of diazepam in 11 cats. Journal of the American Veterinary Medical Association. 1996;209:618–625。
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