犬の肺水腫とは?呼吸が速い・苦しそうなときの症状、原因、治療と受診目安
今、呼吸が苦しそうな場合は、読む前にご連絡ください
お腹に力を入れて呼吸する、首を伸ばして苦しそうにする、横になれない、舌や歯ぐきが青紫色・灰色になる、倒れるといった症状は緊急受診のサインです。
呼吸数の測定や動画撮影のために受診を遅らせず、受け入れ可能な動物病院へ直ちに電話してください。
休診日・診察時間外は、診療再開を待たず救急対応の動物病院へご相談ください。[8]
「寝ているのに呼吸が速い」
「急にハアハアして落ち着かない」
「咳が増えて、呼吸が苦しそう」
このような変化がみられる場合、原因のひとつとして注意したいのが肺水腫(pulmonary edema)です。
肺水腫とは、肺の中に液体がたまり、酸素をうまく取り込めなくなっている状態です。特に犬では、僧帽弁粘液腫様変性(Myxomatous Mitral Valve Disease:MMVD)による僧帽弁閉鎖不全症などの心臓病が進行して起こる心原性肺水腫が重要です。
肺水腫は短時間で呼吸状態が悪化することがあるため、「様子を見てよいのか」「すぐに受診すべきか」を判断することが大切です。
国分寺ハートアニマルクリニックでは、心雑音、咳、呼吸数の増加、失神などの症状に対し、心エコー検査や胸部X線検査などを組み合わせて循環器診療を行っています。詳しくは循環器診療ページもご覧ください。
犬の肺水腫とは
肺では、吸い込んだ空気から酸素を血液へ取り込み、血液中の二酸化炭素を外へ排出しています。
肺水腫になると、肺胞やその周囲の組織に液体がたまり、酸素と二酸化炭素の交換が妨げられます。その結果、呼吸数が増える、胸やお腹に力を入れて呼吸する、苦しそうにするなどの変化がみられます。肺の外側の空間に液体がたまる胸水貯留とは、液体がたまる場所と治療が異なります。[1][7]
原因を考える際には、心臓病が原因の心原性肺水腫(cardiogenic pulmonary edema)と、心臓病以外の原因による非心原性肺水腫(noncardiogenic pulmonary edema)を区別します。輸液による体液過剰なども含め、既往歴と発症前の状況を確認する必要があります。
心原性肺水腫は、左心系の心臓病によって左心房や肺静脈側の圧が上昇し、肺へ液体が漏れ出すことで起こります。犬では僧帽弁閉鎖不全症や拡張型心筋症などが代表的な原因です。心疾患の種類と検査の全体像は、犬の心臓病の症状・検査・治療もご覧ください。
一方、重度の神経疾患や上部気道閉塞など、心臓病以外の原因によって肺水腫が生じることもあります。そのため、「肺水腫=必ず心臓病」ではありません。原因を見極めることが治療上とても重要です。
僧帽弁閉鎖不全症と肺水腫
犬の心原性肺水腫で特に重要な原因のひとつが、僧帽弁粘液腫様変性(myxomatous mitral valve disease:MMVD)に伴う僧帽弁閉鎖不全症です。MMVDは弁の変性を表す疾患名であり、僧帽弁閉鎖不全症という逆流の病態と厳密には同義ではありません。
僧帽弁が正常に閉じなくなると、心臓が収縮するたびに左心室から左心房へ血液が逆流します。病気が進行すると左心房や左心室が拡大し、さらに左心房圧が上昇すると、肺静脈から肺へうっ血が生じ、最終的に肺水腫へ進行することがあります。
米国獣医内科学会(American College of Veterinary Internal Medicine:ACVIM)の2019年コンセンサスガイドラインでは、MMVDによるうっ血性心不全(congestive heart failure:CHF)を現在認める、または過去に起こした犬は、通常ステージCとして管理します。
標準的な治療で心不全を十分にコントロールできない場合はステージDに分類します。
肺水腫が改善して症状がなくなっても、心不全を起こしたことのないステージBへ戻るわけではありません。[1]
一方で、心雑音や心拡大があるだけで、すべての犬が肺水腫になっているわけではありません。また、MMVDでは心拡大の程度などを評価して、ステージB1・B2に分けます。詳しくは僧帽弁閉鎖不全症のB1・B2の違いをご覧ください。
心原性肺水腫が起こる流れ
MMVDなど
呼吸数増加・呼吸困難
※心雑音や心拡大があるだけで、必ず肺水腫になっているわけではありません。
犬の肺水腫でみられる症状
肺水腫では、最も重要なのが呼吸の変化です。
- 寝ているのに呼吸数が多い
- 安静にしていても呼吸が速い
- お腹を大きく使って呼吸する
- 落ち着かず何度も姿勢を変える
- 横になれず座ったまま呼吸する
- 首を伸ばして呼吸する
- 咳が増える
- 元気がなくなる
- 重症では舌や歯肉が青紫色になる(チアノーゼ)
肺水腫の初期には「いつもより呼吸数が多い」程度の変化しかみられないこともあります。心臓病がある犬では、日頃から呼吸数を確認しておくことが重要です。
寝ているときの呼吸数を確認してください
心臓病の犬では、自宅での睡眠時呼吸数(Sleeping Respiratory Rate:SRR)または安静時呼吸数(Resting Respiratory Rate:RRR)の確認が非常に有用です。
胸またはお腹が「上がって下がる」動きを1回として、できれば深く眠っているときに1分間測定します。

内科治療で心不全が安定している犬を調べた研究では、各犬の平均睡眠時呼吸数は、多くで1分間に30回未満でした。ただし、これは1回の測定値だけで肺水腫を診断したり、否定したりできる境界線ではありません。暑さ、興奮、発熱、痛み、呼吸器疾患などでも呼吸数は増加します。[3][4][5]
深く眠っているのに30回以上が繰り返しみられる場合や、普段より明らかな増加が続く場合は、速やかに主治医へ相談してください。胸やお腹に力が入る、横になれないなどの呼吸の苦しさがあれば、回数にかかわらず緊急受診が必要です。
大切なのは、その犬自身の普段の呼吸数を把握し、明らかな上昇が続いていないかを見ることです。測り方や考え方については、犬の安静時・睡眠時呼吸数の記事で詳しく解説しています。
すぐに受診した方がよい症状
今すぐ連絡・緊急受診
- 胸やお腹に力を入れて呼吸する
- 横になれない
- 首を伸ばして苦しそうにする
- 舌や歯ぐきが青紫色・灰色
- ぐったりする・倒れる
呼吸数が何回かにかかわらず、受診を優先してください。
苦しさがなくても早めに連絡
- 眠っているときの呼吸数が普段より明らかに多い状態が続く
- 心臓病の治療中に呼吸の様子が変わった
当日中を目安に主治医へ相談し、受診時期を確認してください。急な悪化や呼吸の苦しさが加わった場合は、すぐに受診します。
受診までにできること・避けたいこと
まず動物病院へ電話し、呼吸の様子と心臓病の治療歴を伝えてください。移動中は車内を涼しく保ち、犬が楽に呼吸できる姿勢を優先します。無理に歩かせたり、胸や首を強く圧迫する抱き方をしたりしないでください。[8]
呼吸が苦しい犬に、食事・水・薬を無理に口から与えないでください。主治医から緊急時の投薬指示をあらかじめ受けている場合はその指示に従い、指示がなければ自己判断で薬を追加せず受診を優先します。呼吸数の記録や撮影より、治療につなげることが先です。
肺水腫の診断
肺水腫が疑われる場合でも、まず動物の呼吸状態を確認することが優先されます。呼吸困難が重度の場合は、検査のために過度な保定を行うこと自体が負担になるため、状態に応じて酸素投与などによる安定化を優先してから検査を行います。
診断には、聴診、胸部X線検査、心エコー検査、血圧測定、血液検査などを組み合わせます。
胸部X線検査では肺野の変化や心拡大を確認します。心エコー検査では、僧帽弁逆流、左心房・左心室の拡大、心収縮機能、肺高血圧を示唆する所見などを確認し、肺水腫の背景にある心臓病を評価します。
診察の場で必要な情報を短時間で確認するポイントオブケア超音波検査(Point-of-Care Ultrasound:POCUS)も、呼吸困難の評価を補助します。肺エコーではBライン(B-lines)という縦方向の白い線状の所見を確認することがあります。これは超音波の反射で生じる画像上の現象で、肺の水分量増加などに伴って増えますが、肺炎などでもみられ、心原性肺水腫だけの所見ではありません。心エコーだけで肺水腫の有無を確定するのではなく、呼吸状態・肺の画像・心臓の所見を組み合わせて判断します。[6]
検査より先に、呼吸を安定させることがあります
呼吸状態を確認 → 必要なら酸素投与・安静 → 負担の少ない検査 → 原因に合わせた治療
検査の順番は一律ではありません。強い保定や無理な姿勢を避け、犬の状態に合わせて進めます。
犬の肺水腫の治療
心原性肺水腫では、まず肺にたまった余分な水分を減らし、呼吸状態を改善することが重要です。
心原性肺水腫:酸素投与と心不全の治療
MMVDによる急性うっ血性心不全では、酸素投与と、フロセミド(furosemide)などのループ利尿薬による治療が中心になります。利尿薬は尿として水分を排出させ、肺うっ血の軽減を図る薬です。病態に応じて、心臓の収縮を助け血管を広げるピモベンダン(pimobendan)なども使用します。[1]
ピモベンダンにも嘔吐や頻脈などの副作用があり、病態によっては使用が適さない場合があります。薬の選択と投与量は獣医師が判断します。[9]
非心原性肺水腫:原因への対応が必要です
上部気道閉塞、けいれん発作、感電、溺水などに伴う肺水腫では、酸素投与などで呼吸を支えながら、気道の確保や発作への対応などを行います。心原性肺水腫と同じ治療を一律に当てはめることはできず、利尿薬の適応も症例ごとに判断します。[7]
重度の呼吸不全では、通常の酸素投与だけで十分に改善しないこともあり、設備や状態によってより積極的な呼吸管理が必要になる場合があります。
薬の副作用と定期検査
利尿薬には脱水、腎機能への影響、電解質異常などのリスクがあります。そのため、呼吸の改善だけでなく、血液検査や体重、食欲、飲水・排尿の変化も確認しながら調整します。主治医があらかじめ決めた緊急時の指示がない場合は、飼い主様の判断で増量しないでください。[1]
また、利尿薬を使用しているからといって、自己判断で飲水を制限することも推奨できません。治療内容や飲水管理については必ず主治医の指示に従ってください。
肺水腫が改善した後も呼吸数の管理が重要です
一度肺水腫が改善しても、原因となる心臓病そのものがなくなったわけではありません。特にMMVDによるうっ血性心不全では、その後も再発を防ぐための治療と定期的な評価が必要になります。
自宅では、食欲、元気、咳、睡眠時呼吸数、失神の有無などを観察してください。呼吸数は「その日の数字」だけではなく、その犬自身の基準値から変化しているかを見ることが重要です。
咳がある=肺水腫とは限りません
犬の咳には、心臓病以外にもさまざまな原因があります。例えば、気管虚脱、慢性気管支炎、感染性呼吸器疾患などでも咳はみられます。
また、MMVDの犬が咳をしているからといって、その咳が必ず肺水腫によるものとは限りません。特に小型高齢犬では気管・気管支疾患を併発することもあるため、咳の原因を心臓だけで判断しないことが重要です。
「咳だけ」の場合と、「呼吸数の増加・呼吸努力を伴う場合」では緊急度が異なります。
国分寺ハートアニマルクリニックの循環器診療
心臓病は、心雑音が聞こえる段階から、心拡大、うっ血性心不全、肺水腫へと進行する場合があります。一方で、適切な時期に病期を評価し、必要な治療を開始することで、心不全発症までの期間を延長できることが示されている病期もあります。
例えば、一定の基準を満たす心拡大がある一方、まだ心不全症状がないMMVDの犬を対象としたピモベンダンの有効性を調べたEPIC試験では、ピモベンダンによって心不全の発症・心臓関連死などの評価項目に到達するまでの期間が延長されました。これは発症前の犬の研究であり、すでに肺水腫を起こした犬の余命を示すデータではありません。[2]
そのため、「心雑音はあるけれど元気だから大丈夫」ではなく、現在どのステージなのか、心拡大があるのか、治療を始める段階なのか、自宅で何を観察すべきなのかを整理することが重要です。
国分寺ハートアニマルクリニックでは、国分寺・小平・小金井をはじめ、国立・府中・立川・東村山など多摩地域の飼い主様からも、犬猫の心雑音、咳、呼吸数の増加、心臓病についてご相談いただける循環器診療体制を整えています。
よくあるご質問
咳がなければ、肺水腫ではありませんか?
咳が目立たない場合でも、肺水腫は否定できません。眠っているときの呼吸数の増加や、胸・お腹に力を入れる呼吸、横になれないなどの変化も重要です。咳の有無だけで様子を見続けないでください。[1][8]
肺水腫は治りますか?余命はどのくらいですか?
治療によって肺の液体貯留が減り、呼吸が改善する場合はあります。ただし、心臓病が原因であれば、肺水腫の改善と心臓病そのものの治癒は別です。今後の経過は原因疾患、重症度、治療への反応、腎機能、再発の有無などによって異なり、すべての犬に共通する余命は示せません。主治医と治療目標や再診時期を相談しましょう。
自宅の酸素室で様子を見てもよいですか?
酸素室は主治医の指示のもとで呼吸を補助するものです。原因の診断や、肺うっ血を改善する治療の代わりにはなりません。呼吸が苦しい状態や悪化があるときは、酸素室があることを理由に受診を遅らせないでください。
まとめ
犬の肺水腫は、特に心臓病がある犬では注意が必要な緊急性の高い状態です。
重要なのは「咳が出たかどうか」だけではありません。寝ているときの呼吸数がいつもより増えていないか、呼吸に力が入っていないか、横になって眠れているか、粘膜の色に異常がないかなど、呼吸全体の変化を見ることが大切です。
心臓病の治療中で呼吸数が増えてきた場合や、呼吸が苦しそうな場合は、早めに動物病院へご相談ください。
医療情報確認日:2026年10月7日
参考文献・参考資料
- Keene BW, Atkins CE, Bonagura JD, et al. ACVIM consensus guidelines for the diagnosis and treatment of myxomatous mitral valve disease in dogs. J Vet Intern Med. 2019;33(3):1127–1140. DOI: 10.1111/jvim.15488
- Boswood A, Häggström J, Gordon SG, et al. Effect of Pimobendan in Dogs with Preclinical Myxomatous Mitral Valve Disease and Cardiomegaly: The EPIC Study—A Randomized Clinical Trial. J Vet Intern Med. 2016;30(6):1765–1779. DOI: 10.1111/jvim.14586
- Schober KE, Hart TM, Stern JA, et al. Effects of treatment on respiratory rate, serum natriuretic peptide concentration, and Doppler echocardiographic indices of left ventricular filling pressure in dogs with congestive heart failure secondary to degenerative mitral valve disease and dilated cardiomyopathy. J Am Vet Med Assoc. 2011;239(4):468–479. DOI: 10.2460/javma.239.4.468
- Porciello F, Rishniw M, Ljungvall I, et al. Sleeping and resting respiratory rates in dogs and cats with medically-controlled left-sided congestive heart failure. Vet J. 2016;207:164–168. DOI: 10.1016/j.tvjl.2015.08.017
- Ohad DG, Rishniw M, Ljungvall I, et al. Sleeping and resting respiratory rates in dogs with subclinical heart disease. J Am Vet Med Assoc. 2013;243(6):839–843. DOI: 10.2460/javma.243.6.839
- Ward JL, Lisciandro GR, Keene BW, et al. Accuracy of point-of-care lung ultrasonography for the diagnosis of cardiogenic pulmonary edema in dogs and cats with acute dyspnea. J Am Vet Med Assoc. 2017;250(6):666–675. DOI: 10.2460/javma.250.6.666
- Nemi JR, Hopper K, Epstein SE. Retrospective evaluation of noncardiogenic pulmonary edema in dogs and cats (2000–2021): 31 cases. J Vet Emerg Crit Care. 2023;33(3):354–359. DOI: 10.1111/vec.13290
- Cornell University College of Veterinary Medicine. Recognizing and responding to canine respiratory distress. コーネル大学獣医学部による犬の呼吸困難の見分け方と対応。2026年10月7日確認。
- 農林水産省 動物医薬品検査所「動物用医薬品等データベース」。ベトメディン1.25mg:効能・効果、使用上の注意。 2026年10月7日確認。
ご不明な点がございましたら、お気軽にご相談ください。
LINE友だち追加で診察予約・最新情報がチェックできます!!

国分寺、小平、小金井周辺にお住まいの飼い主様
定期的な健康チェックから心臓病、歯のお悩みまで、気になることがございましたらご相談ください。
大切なペットが元気に過ごせるよう、スタッフ一同サポートいたします。
国分寺ハートアニマルクリニック
東京都国分寺市本多3-3-5プラザ明和1階
TEL:042-316-8631

