猫の肥大型心筋症(HCM)と診断されたら薬は必要?呼吸数・血栓症と自宅での管理

猫の肥大型心筋症の薬と自宅管理をテーマに、眠る猫と呼吸観察用のタイマー・記録帳を描いたイメージイラスト。

前回の「猫の心筋症とは?肥大型心筋症だけではない猫の心臓病」では、心筋症の種類と、左心房や心臓全体の状態を確認する大切さをお伝えしました。

今回は、肥大型心筋症(hypertrophic cardiomyopathy:HCM)と診断されたあとに気になる「薬は必要なのか」「家では何を見ればよいのか」を解説します。

治療の必要性は、症状の有無に加えて、心臓の状態や合併症のリスクによって変わります。薬を使わず経過をみる猫もいれば、元気に見えても血栓症の予防を検討する猫もいます。

いま口を開けて呼吸している、胸やお腹を大きく動かして苦しそうにしている、突然足が動かなくなった場合は、記事を読み終えるのを待たずに動物病院へ連絡してください。[5]

薬が必要かは「ステージ」と合併症のリスクで判断します

米国獣医内科学会(ACVIM)の分類では、心筋症がある猫を、症状や心不全・動脈血栓塞栓症のリスクに応じて次のように整理します。[1]

ステージ心臓と症状の状態管理の基本
B1心筋症はあるが無症状で、近い将来の合併症リスクは比較的低い多くは定期検査と家庭での観察が中心
B2無症状でも、左心房の拡大などから合併症リスクが高い血栓予防などの必要性を個別に検討
C心不全または動脈血栓塞栓症を起こした、あるいは過去に起こした起きている合併症の治療と再発予防
D通常の治療では心不全のコントロールが難しい治療を調整し、生活の質にも配慮

一度心不全や血栓症を起こした猫は、治療で症状が落ち着いてもステージCとして管理します。左心房の大きさ・動き、心臓内の血液の流れや血栓の有無などを総合して判断するため、心筋の厚さだけでは薬の必要性は決まりません。[1]

薬にはそれぞれ異なる目的があります

血栓ができるリスクを下げる薬

心臓内でできた血栓が動脈に詰まると、足などへの血流が途絶えることがあります。左心房が大きい、血液の流れが遅いなどの所見がある猫では、クロピドグレルなどの抗血栓予防薬を検討します。[1,3]

クロピドグレルは、血小板が集まる働きを抑える薬です。血栓塞栓症を経験した猫を対象としたFAT CAT試験では、アスピリンに比べて再発までの期間が長くなりました。ただし、この試験は一度発症した猫の再発予防を調べたものです。初めての発症をどの程度防げるかとは分けて考える必要があり、投薬していてもリスクがゼロになるわけではありません。[3]

注意点は、出血しやすくなる可能性があることです。血尿や傷からの出血が止まりにくいなどの変化は、病院へ連絡してください。また、苦味でよだれが増えたり、吐き気・嘔吐がみられたりすることもあります。飲ませにくい場合は、剤形や投薬方法を主治医に相談しましょう。[1,7]

肺水腫や胸水を伴う心不全を治療する薬

心不全で肺の中に水分がたまる「肺水腫」や、肺の周囲に液体がたまる「胸水」が起きると、呼吸が苦しくなります。治療ではフロセミドなどの利尿薬を用い、状態に応じて酸素投与や胸水を抜く処置などを行います。[1,5]

利尿薬は、HCMと診断された猫すべてに予防的に使う薬ではありません。尿量が増える一方、脱水や腎機能の悪化、電解質の異常に注意が必要です。開始後や用量の変更後には、主治医の指示に合わせて血液検査などを受けます。呼吸数だけを見て飼い主様の判断で増減せず、事前に相談した投薬計画に従ってください。[1,7]

心拍数や血液の出口の狭まりに対応する薬

アテノロールなどは、心拍数や、心臓が収縮するときに血液の出口が狭くなる「動的左室流出路閉塞(DLVOTO)」を調整する目的で選択されることがあります。一方、無症状のHCM猫を追跡した研究では、アテノロールによる5年間の生存率の改善は示されませんでした。[4]

この結果は、すべての猫にアテノロールが不要という意味ではありません。薬を選ぶときには、「その猫のどの異常を改善するために使うのか」を確認することが大切です。注意する副作用には、心拍数が下がりすぎる徐脈、血圧の低下、元気消失やふらつきなどがあります。心不全の状態によっては病状を悪化させる可能性もあるため、診察で適応を慎重に判断します。[7]

新しい治療の研究も進んでいます

2025年3月、米国FDAは、無症状のHCM猫の心室肥大を管理する薬として、シロリムス遅延放出製剤Felycin-CA1を条件付き承認しました。[6]

ただし、心筋の厚さへの効果と、心不全・血栓症の予防や寿命の延長は別の評価です。米国での条件付き承認は、有効性の十分な実証を今後も進めることを前提としており、「無症状なら必ずこの薬」と一律には判断できません。米国の製品情報では、既存の肝疾患や糖尿病がある猫には使用しないとされています。肝酵素の上昇、元気消失、嘔吐、下痢、食欲低下なども報告されています。国内での承認・入手条件は別途確認が必要で、当院での採用・提供をお約束するものではありません。[6,8]

自宅では「眠っているときの呼吸数」を記録しましょう

呼吸数は、飼い主様が家庭で確認できる大切な情報です。HCMを含む無症状の心疾患がある猫でも、普段の寝息を知っておくと変化に気づきやすくなります。

  1. 静かに眠っているときを選びます。運動直後、暑いとき、緊張しているとき、ゴロゴロ喉を鳴らしているときは避けます。
  2. 胸やお腹が上がって下がる一往復を「1回」と数えます。
  3. できれば1分間数えます。30秒間数えた場合は、その回数を2倍にします。
  4. 日付、1分間の呼吸数、食欲や様子を記録します。気になる呼吸は動画も診察の参考になります。

飼い主様が家庭で測定した研究では、健康な猫や無症状の心疾患がある猫の多くで、平均の睡眠時呼吸数は1分間30回未満でした。眠っているのに30回を超える状態が繰り返される、または普段より明らかに増えている場合は、早めに病院へ相談してください。[2]

30回という数字は相談の目安です。一度の測定だけで心不全とは診断できず、30回未満でも病気を否定できません。主治医から個別の目安を伝えられている場合は、その指示に従ってください。

猫の心筋症の受診目安。苦しそうな呼吸や突然の足の異常はすぐに連絡し、睡眠時呼吸数の増加が続く場合は早めに相談する。

呼吸の苦しさがあるときは、回数を数えるより受診を優先します

口を開けて息をする、胸やお腹を大きく使って呼吸する、横になれず苦しそうにするなどの変化は、急いで診察が必要なサインです。心筋症のある猫では肺水腫や胸水を疑いますが、呼吸器の病気でも同じような症状が起こります。[5]

無理に抱きしめたり、食事・水・薬を飲ませたりせず、できるだけ刺激を減らして受診先へ電話してください。診療時間外は、受け入れ可能な救急の動物病院へ連絡します。呼吸が苦しそうなときは、動画撮影や呼吸数の再測定で受診を遅らせないことが大切です。

突然の足の異常は「動脈血栓塞栓症」の可能性があります

心臓内でできた血栓が流れて動脈に詰まると、突然足が動かない、強く痛がる、立てないなどの症状が出ることがあります。後ろ足に起こることが多いものの、症状の出方には違いがあります。[5]

けがや神経の病気と飼い主様だけで区別することは困難です。足を揉んだり、無理に歩かせたりせず、すぐに動物病院へ連絡してください。「明日まで様子を見る」と受診を先延ばしにしないでください。

通院と投薬を無理なく続けるために

診察時には、呼吸数の記録に加えて、食欲、体重、活動性、薬を飲めたかどうかを伝えてください。「飲ませようとすると強く抵抗する」「吐いてしまう」なども、治療を続ける方法を考えるために必要な情報です。

定期検査の間隔は、心臓の状態や経過に合わせて決めます。症状がない間も予約した再診を続け、変化があれば予定日を待たずに相談しましょう。薬の開始・中止・増減は、主治医と確認しながら行います。

国分寺ハートアニマルクリニックでは、猫の心臓超音波検査、胸部レントゲン検査、血圧測定などを組み合わせて心筋症の状態を評価しています。国分寺・小平・小金井周辺で、HCMと診断された後の治療や自宅管理についてお悩みの飼い主様もご相談ください。

よくあるご質問

元気なのに薬を処方されるのはなぜですか?

外見上の元気さだけでは、心臓内の血流や血栓のリスクまでは分かりません。左心房の拡大など、検査で確認されたリスクに合わせて予防の必要性を判断します。薬の目的と、経過観察でよい場合との違いを主治医に確認しましょう。[1]

眠っているときの呼吸数が30回を超えたら、心不全ですか?

呼吸数だけでは診断できません。測定時の状態や普段との差を確認し、増加が繰り返される場合は早めに相談してください。口を開ける、胸やお腹を大きく動かすなど苦しそうな呼吸があれば、回数にかかわらず直ちに連絡します。[2,5]

薬を飲ませると吐く場合はどうすればよいですか?

薬の名前、投薬時刻、吐いた時刻や様子を記録して病院へ相談してください。どの程度薬が吸収されたか分からないため、自己判断で同じ量を追加しないでください。投薬方法や剤形の見直しが必要な場合もあります。


参考文献・参考資料

  • [1]Luis Fuentes V, et al. ACVIM consensus statement guidelines for the classification, diagnosis, and management of cardiomyopathies in cats. J Vet Intern Med. 2020;34:1062–1077. 本文・DOI
  • [2]Ljungvall I, et al. Sleeping and resting respiratory rates in healthy adult cats and cats with subclinical heart disease. J Feline Med Surg. 2014;16:281–290. PubMed
  • [3]Hogan DF, et al. FAT CAT試験:猫の心原性動脈血栓塞栓症の再発予防におけるクロピドグレルとアスピリンの比較. J Vet Cardiol. 2015;17 Suppl 1:S306–S317. PubMed
  • [4]Schober KE, et al. Effect of treatment with atenolol on 5-year survival in cats with preclinical (asymptomatic) hypertrophic cardiomyopathy. J Vet Cardiol. 2013;15:93–104. PubMed
  • [5]Cornell University College of Veterinary Medicine. Hypertrophic Cardiomyopathy (HCM). 大学病院の解説
  • [6]U.S. Food and Drug Administration. 猫の心室肥大管理薬Felycin-CA1の条件付き承認に関する発表(2025年3月14日). FDA発表
  • [7]Tufts University, Cummings School of Veterinary Medicine. Heart Disease – Medications. 大学病院の薬剤解説(閲覧日:2026年10月5日)
  • [8]PRN Pharmacal / TriviumVet. Felycin-CA1: Cat Owner / Important Safety Information. 製品の安全性情報(閲覧日:2026年10月5日)

医療情報確認日:2026年10月5日


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