猫の肥大型心筋症(HCM)と暮らす|治療・呼吸数・心不全・血栓症のサイン
猫の肥大型心筋症(HCM)と診断された飼い主様から、よくいただくご質問があります。
「今は元気なのに、お薬は必要ですか?」
「家では何を見ていればいいですか?」
「呼吸が速くなったら、どのくらいで受診すればいいですか?」
肥大型心筋症は、同じHCMという診断でも経過やリスクが猫によって大きく異なります。大切なのは病名だけではなく、左心房の大きさ、心不全や血栓症のリスク、現在の症状を総合的に評価することです。
この記事でわかること
- HCMと診断された猫に、いつ治療を考えるのか
- 自宅で確認したい睡眠時呼吸数と受診の目安
- 心不全で注意したい呼吸の変化
- 動脈血栓塞栓症を疑う緊急症状
────────────────────────
HCMと診断されたら、すぐに薬が必要?
HCMが見つかったからといって、すべての猫で直ちに心臓薬を開始するわけではありません。
猫の心筋症では、心不全や動脈血栓塞栓症を起こしたことがない無症候性の段階でも、将来的なリスクによって評価が変わります。
特に重要なのが「左心房」の状態です。心筋が厚く硬くなると左心室が血液を受け入れにくくなり、その負担が左心房にかかります。左心房の拡大や血流のうっ滞が進むほど、うっ血性心不全や血栓症のリスクが高くなります。
そのため、心筋の厚さだけで治療の必要性を判断するのではなく、心臓超音波検査で左心房の大きさや血流、左室流出路狭窄の有無などを確認します。
────────────────────────
血栓症のリスクが高い猫では予防を考えます
猫のHCMで特に注意したい合併症のひとつが「動脈血栓塞栓症」です。
左心房が大きくなり血液の流れが滞ると、心臓の中に血栓ができることがあります。その血栓が流れて大動脈などを塞ぐと、突然、後ろ足が動かなくなる、強く痛がる、足先が冷たくなるなどの症状を起こします。
どんな猫で血栓症に注意する?
左心房の著しい拡大、左房機能の低下、血液が煙のように見えるspontaneous echo contrast(SEC)、心臓内血栓、過去の動脈血栓塞栓症などが認められる場合には、抗血栓薬の使用を検討します。
ただし、すべてのHCMの猫に一律に抗血栓薬が必要なわけではありません。心臓超音波所見や既往歴をもとに、その猫ごとに判断することが重要です。
────────────────────────
自宅で最も確認してほしい「睡眠時呼吸数」
HCMの猫をご自宅で見守るうえで、特に役立つのが睡眠時呼吸数です。
心不全が進行すると、肺水腫や胸水によって呼吸が速くなることがあります。そのため「いつもの呼吸数」を知っておくことが、変化の早期発見につながります。
猫がぐっすり眠っているときに、胸が「上がって、下がる」動きを1回として数えます。15秒間で5回なら、5×4=20回/分です。
呼吸数は何回から注意する?
健康な猫や無症候性の心疾患猫では、睡眠時呼吸数は多くの場合30回/分未満です。ただし、30回という数字を1回超えただけで心不全と判断するものではありません。
普段20回前後だった猫が、28回、32回、35回と持続的に増えてくるなど、「その子自身のいつもの値からの変化」を見ることが重要です。
30回/分以上が繰り返される、または普段より明らかに増えてきた場合には、一度動物病院へご相談ください。
────────────────────────
猫の心不全では「咳」より呼吸の変化に注意
犬の心臓病では咳が話題になることが多いですが、猫のうっ血性心不全では咳が目立たないことも少なくありません。
注意していただきたいのは、次のような変化です。
- 眠っているのに呼吸が速い
- お腹を大きく使って呼吸している
- 首を伸ばして呼吸している
- 横になれず落ち着かない
- 口を開けて呼吸している
特に猫の開口呼吸や明らかな呼吸困難は緊急性の高いサインです。呼吸数を何度も測って様子を見るのではなく、速やかに動物病院へご相談ください。
────────────────────────
突然、後ろ足が動かなくなったら
HCMでは、動脈血栓塞栓症にも注意が必要です。
突然、後ろ足が立たない・引きずる、激しく鳴く、強く痛がる、足先が冷たい、肉球の色が白っぽい・紫色になる、といった症状がみられた場合には緊急受診が必要です。
これは血栓が大動脈から後肢へ向かう血管を塞いでいる可能性があります。強い痛みを伴うことも多いため、できるだけ早く診察を受けてください。
────────────────────────
定期的な心臓超音波検査が大切です
HCMは、診断された時点の状態だけでは今後の経過を正確に予測できません。
長期間ほとんど変化しない猫もいれば、時間とともに左心房の拡大が進む猫もいます。
そのため定期検査では、心筋の厚さだけではなく、左心房の大きさ、心臓の拡張・収縮、左室流出路狭窄、血流のうっ滞、血栓の有無などを前回と比較して評価します。
「HCMがあるかどうか」だけではなく、「以前と比べてどう変化しているか」を確認することが大切です。
────────────────────────
まとめ
猫の肥大型心筋症では、症状がないからといって将来のリスクがないとは限りません。一方で、HCMと診断されたすべての猫にすぐ治療が必要なわけでもありません。
大切なのは、心臓超音波検査などで現在の状態を正しく評価し、その猫に必要な治療や検査のタイミングを考えることです。
ご自宅では、特に「睡眠時呼吸数」と「呼吸の仕方」を確認してみてください。また、突然後ろ足が動かなくなる、強く痛がるなどの症状は動脈血栓塞栓症の可能性があり、緊急受診が必要です。
国分寺・小平・小金井で猫の心臓病が気になる方へ
国分寺ハートアニマルクリニックでは、心臓超音波検査、胸部レントゲン検査、血圧測定などを組み合わせ、猫の肥大型心筋症・心筋症の診断、リスク評価、定期的な経過観察を行っています。
国分寺・小平・小金井周辺で、「心雑音を指摘された」「HCMと言われた」「最近呼吸が速い」「血栓症のリスクについて詳しく知りたい」という場合にも、お気軽にご相談ください。
────────────────────────
猫の肥大型心筋症でよくある質問
HCMと診断されたら、症状がなくても薬は必要ですか?
すべての猫に一律で薬を開始するわけではありません。左心房の大きさ、血流のうっ滞、左室流出路狭窄、心不全や血栓症のリスクなどを心臓超音波検査で評価し、その猫に合わせて治療の必要性を判断します。
寝ているときの呼吸数は何回なら注意が必要ですか?
多くの猫では睡眠時呼吸数は30回/分未満です。ただし、1回の数字だけで判断するのではなく、普段の値から持続的に増えていないかを見ることが重要です。30回/分以上が繰り返される、または明らかに増えてきた場合にはご相談ください。
突然、後ろ足が動かなくなったらどうすればよいですか?
動脈血栓塞栓症の可能性があります。後ろ足が動かない、強く痛がる、足先が冷たい、肉球の色が白い・紫色などの変化がある場合は、様子を見ずに早急に動物病院へご連絡ください。
────────────────────────
関連記事
猫の肥大型心筋症(HCM)とは?症状がなくても見つかる猫の心臓病
────────────────────────
ご不明な点がございましたら、お気軽にご相談ください。
LINE友だち追加で診察予約・最新情報がチェックできます!!

国分寺、小平、小金井周辺にお住まいの飼い主様
定期的な健康チェックから心臓病、歯のお悩みまで、気になることがございましたらご相談ください。
大切なペットが元気に過ごせるよう、スタッフ一同サポートいたします。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*------------------------------------------------
国分寺ハートアニマルクリニック
東京都国分寺市本多3-3-5プラザ明和1階
042-316-8631
────────────────────────
参考文献
Luis Fuentes V, Abbott J, Chetboul V, et al. ACVIM consensus statement guidelines for the classification, diagnosis, and management of cardiomyopathies in cats. J Vet Intern Med. 2020;34:1062-1077.
Ljungvall I, Rishniw M, Porciello F, et al. Sleeping and resting respiratory rates in healthy adult cats and cats with subclinical heart disease. J Feline Med Surg. 2014;16:281-290.
Fox PR, Keene BW, Lamb K, et al. International collaborative study to assess cardiovascular risk and evaluate long-term health in cats with preclinical hypertrophic cardiomyopathy and apparently healthy cats: The REVEAL Study. J Vet Intern Med. 2018;32:930-943.
Hogan DF, Fox PR, Jacob K, et al. Secondary prevention of cardiogenic arterial thromboembolism in the cat: clopidogrel vs aspirin trial (FAT CAT). J Vet Cardiol. 2015;17 Suppl 1:S306-S317.


