猫の歯が抜けた|子猫は生え変わり?成猫の原因・受診目安を獣医師が解説
「猫の歯が床に落ちていた」「いつの間にか犬歯がなくなっている」「歯がぐらぐらしている」。このような変化に気づいたとき、子猫と成猫では考え方が異なります。
最初に結論:成猫の永久歯が自然に抜けるのは正常ではありません
生後3〜6か月頃の子猫では、乳歯から永久歯への生え変わりで歯が抜けることがあります。一方、永久歯がそろった成猫で歯が抜けた場合は、歯周病、歯の吸収病変、外傷などが疑われます。痛そうに見えなくても、口腔内の診察を受けることをおすすめします。[1〜4]
子猫と成猫では「歯が抜けた」の意味が違います
| 猫の年齢・状況 | 考え方と対応 |
|---|---|
| 生後3〜6か月頃の子猫 | 乳歯の生え変わりで抜けることがあります。永久歯が正しい位置に生えているか、同じ場所に乳歯と永久歯が二重に並んでいないかを確認します。 |
| 生後6〜7か月以降の猫 | 永久歯が自然に抜けるのは正常とは考えません。歯周病、歯の吸収病変、外傷などを調べるため、早めに受診しましょう。 |
| 年齢にかかわらず、出血・強い痛み・食べられない・顔の腫れがある | 当日中の相談をおすすめします。交通事故などの大きな外傷、止まらない出血、呼吸の異常がある場合は、現在診療可能な動物病院へ速やかに連絡してください。 |
猫には乳歯26本、永久歯30本があります。永久歯は一般に生後4〜7か月頃までにそろいます。乳歯が残ったまま永久歯が生える「乳歯遺残」があると、歯の位置異常や歯垢の停滞につながるため、動物病院で確認が必要です。[1・5]
成猫の歯が抜ける主な原因
歯周病
歯周病は、歯垢中の細菌と、それに対する炎症反応によって歯肉や歯を支える組織が傷む病気です。初期の歯肉炎は適切な処置とホームケアで改善できる可能性がありますが、歯槽骨まで失われる歯周炎へ進行すると、歯がぐらつき、最終的に抜けることがあります。口臭、歯ぐきの赤みや出血、歯石、食べこぼし、片側だけで噛むといった変化が手がかりです。[1・2]
歯の吸収病変(tooth resorption:TR、旧称FORL)
猫では、歯の硬い組織が徐々に吸収される「歯の吸収病変」がよく見られます。進行すると歯の一部が欠けたように見えたり、歯冠がなくなって「歯が抜けた」と気づかれたりすることがあります。病変は痛みを伴うことがあり、見えている部分だけでは根の状態を判断できないため、歯科用レントゲン検査が重要です。[1・3・4]
外傷による脱落・歯の破折
高い場所からの落下、交通事故、ほかの動物との争い、硬すぎる物を噛んだことなどで、歯が抜けたり折れたりする場合があります。歯が丸ごと抜けたように見えても歯根が残っていることがあり、折れた部分から歯髄が露出すると痛みや感染につながります。歯が丸ごと抜けた直後は時間が重要です。歯根をこすったり消毒したり、無理に元へ戻したりせず、できれば歯冠部分だけを持って牛乳または生理食塩水に浸し、現在診療可能な動物病院へすぐに連絡してください。
猫慢性歯肉口内炎など、強い口腔内炎症
口の奥まで強い炎症が広がる猫慢性歯肉口内炎では、よだれ、口臭、食べるときの痛み、体重減少などが見られます。歯そのものが自然に抜ける病気と単純化はできませんが、重度の口腔内炎症や歯周病を伴い、抜歯を含む治療が検討されることがあります。[4]
口腔内腫瘍や顎の病気
頻度は高くありませんが、口腔内の腫瘤や顎の骨の病変によって歯が動揺することがあります。片側だけの顔の腫れ、繰り返す出血、口が閉じにくい、急な体重減少などを伴う場合は、早めの詳しい検査が必要です。
受診の目安
当日中に相談したい状態
- 口からの出血が続く
- 痛そうで食べられない、飲み込めない
- よだれが急に増え、血が混じる
- 顔や顎が腫れている
- 落下や交通事故など、大きな外傷の後に歯が抜けた
- 元気消失、嘔吐、呼吸の異常など、口以外の症状もある
数日以内を目安に歯科診察を受けたい状態
- 成猫の歯が1本抜けた、または歯がぐらついている
- 痛そうではないが、口臭や歯石が目立つ
- 食べる速度が遅い、片側だけで噛む、フードを落とす
- 歯がなくなった場所に赤みや穴がある
- 子猫で乳歯と永久歯が二重に並んでいる
猫は口の痛みを隠すことがあります。「食べているから大丈夫」とは限りません。成猫の永久歯がなくなっていることに気づいたら、症状が軽く見えても口腔内の確認を受けましょう。
動物病院では何を確認しますか?
まず、歯が本当に抜けたのか、歯冠だけが欠けて歯根が残っているのか、以前から存在しなかった歯なのかを確認します。起きている状態の診察で口臭、歯肉炎、歯の動揺、腫れなどを評価しますが、歯周ポケットや歯根、顎の骨まで正確に調べるには、全身麻酔下での詳しい口腔内検査と歯科用レントゲン検査が必要になることがあります。[1]

全身麻酔を検討する場合は、年齢だけで可否を決めず、持病、服用中の薬、身体検査、血液検査などから麻酔計画を立てます。術前評価を行ってもリスクをゼロにはできませんが、必要なモニタリングや疼痛管理を含めて、安全性を高めるための準備を行います。
治療は原因と歯の状態によって異なります
- 歯周病:歯石除去だけでなく、歯周ポケットと歯を支える骨の状態を評価します。保存が難しく痛みや感染の原因になる歯は、抜歯を検討します。
- 歯の吸収病変:歯科用レントゲンで歯根の状態を確認し、病変の種類と進行度に応じた外科的治療を行います。
- 外傷・破折:歯の種類、破折の深さ、歯髄や歯根の状態により、抜歯、歯内療法、専門施設への紹介などを検討します。
- 口腔内炎症:痛みへの対応と原因の評価を行い、内科治療だけでなく、必要に応じて抜歯を含む治療計画を立てます。
抗菌薬は、すべての歯科疾患で一律に必要となるわけではありません。感染の状態、全身疾患、処置内容を踏まえて個別に判断します。歯科処置では痛みの管理も重要であり、使用する薬には消化器症状などの副作用や、基礎疾患による制約があります。[1]
受診までにできること・避けたいこと
- 最後に普通に食べられた時刻、出血、よだれ、口臭、食べ方の変化を記録する
- 安全に撮影できる場合だけ、歯がなくなった場所や食べ方の短い動画を残す
- 痛そうな場合は、硬いおやつやおもちゃを避ける
- 歯が丸ごと抜けた直後は、歯根を触ったりこすったりせず、牛乳または生理食塩水に浸して持参する
無理に口を開ける、ぐらつく歯を引っ張る、人用の鎮痛薬を与える、消毒薬を口の中へ塗る、金属器具で歯石を取ることは避けてください。猫に咬まれる危険があり、歯や歯ぐきをさらに傷つけるおそれがあります。
歯が抜けた後の生活と予防
永久歯は抜けると生え直しません。ただし、痛みや感染のある歯を適切に治療した後は、多くの猫が食事や日常生活へ順応できます。処置直後の食事内容やホームケアの開始時期は、抜歯部位や治癒状態によって異なるため、担当獣医師の指示に従ってください。
予防の中心は、定期的な口腔内チェックと、猫が無理なく受け入れられるホームケアです。歯磨きは歯垢除去に有効ですが、すでに痛みや出血がある口へ無理に行ってはいけません。治療後に開始時期と方法を相談し、必要に応じてVeterinary Oral Health Council(VOHC)認証製品など、効果が評価された補助製品を選びます。[1]
よくあるご質問
子猫の歯が落ちていました。受診は必要ですか?
生後3〜6か月頃で、食欲や元気に問題がなく、出血や強い痛みがなければ、乳歯の生え変わりの可能性があります。ただし、乳歯と永久歯が同じ場所に並ぶ、噛み合わせが不自然、6〜7か月を過ぎても乳歯が残る場合は受診してください。
成猫の歯が抜けましたが、普通に食べています
猫は口腔内の痛みを隠すことがあり、片側の歯だけで食べ続けることもあります。歯周病や歯の吸収病変、残存歯根を確認するため、早めの歯科診察をおすすめします。
犬歯が抜けても生活できますか?
治療後、多くの猫は残った歯や舌を使って食事へ順応します。ただし、犬歯の脱落は外傷や重度の歯周病などを示す場合があります。抜けたこと自体よりも、原因、痛み、感染、残存歯根の有無を確認することが大切です。
高齢猫なので全身麻酔が心配です
年齢だけで処置の可否を決めるわけではありません。心臓・腎臓などの状態、現在の薬、検査結果、口腔内疾患による痛みや感染の不利益を合わせて判断します。麻酔を行わないまま見える歯石だけを除去しても、歯周病の診断や治療にはなりません。[1・2]
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国分寺ハートアニマルクリニックでは、猫の口臭、歯石、歯のぐらつき、歯の破折、食べにくさなどを診察し、必要な検査・治療・麻酔についてご説明します。処置を受けるか決めていない段階でもご相談いただけます。
歯科専門外来:隔週木曜日
執筆・監修:牛尾俊之(獣医師/国分寺ハートアニマルクリニック院長)
医療情報確認日:2026年10月9日
参考文献・参考資料
[1]Bellows J, et al. 2019 AAHA Dental Care Guidelines for Dogs and Cats. Journal of the American Animal Hospital Association. 2019;55(2):49–69. AAHA公式ガイドライン
[2]AAHA. 2023 AAHA Senior Care Guidelines for Dogs and Cats: Dentistry. AAHA公式資料
[3]Lee S, et al. Transcriptomic profiling of feline teeth highlights the role of matrix metalloproteinase 9 in tooth resorption. Scientific Reports. 2020;10:18958. doi:10.1038/s41598-020-75998-3
[4]Kim CG, Kwon D, Lee K, Kim SE, Jo HM. The prevalence of reasons for tooth extraction in cats. Frontiers in Veterinary Science. 2025;12:1626701. doi:10.3389/fvets.2025.1626701
[5]Merck Veterinary Manual. Dental Development of Cats. Updated June 2025. Merck Veterinary Manual
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