犬の永久歯が生えてこない・歯が足りない|埋伏歯と含歯性嚢胞
「乳歯が抜けたのに、次の歯が見えない」「左右を比べると、片側だけ歯が少ない」。こうしたときは、生え変わりの途中なのか、歯そのものがないのか、歯ぐきや顎の骨の中に残っているのかを確認することが大切です。
見えていない歯が、必ずしも「存在しない歯」とは限りません。埋まった歯の周囲に含歯性嚢胞(がんしせいのうほう)ができると、見た目の変化が小さいうちから顎の骨に影響することがあります。この記事では、受診の目安と歯科用レントゲンの役割、治療を選ぶ際の考え方を解説します。
永久歯はいつまでに生える?
犬の永久歯は通常42本で、生後7か月頃までに生えそろうのが目安です。ただし、月齢だけで診断することはできません。生え変わりの経過、左右差、乳歯の残り方、以前に抜歯した記録などを合わせて評価します。
生後6〜7か月頃の健診で歯の本数を確認し、「片側だけ生えない」「乳歯が残っているのに永久歯が見えない」といった点があれば相談しましょう。腫れや痛みがある場合は、その月齢まで待つ必要はありません。成犬になってから気づいた場合も、年齢だけで問題がないとは判断できません。
「歯がないように見える」主な理由
① 歯が形成されていない
先天的欠如。もともと永久歯が形成されていない状態です。画像と過去の治療歴で判断します。
② 歯が中に埋まっている
未萌出歯・埋伏歯。歯は存在していても、歯ぐきや骨に覆われ、口の中に出ていない状態です。
③ 歯を失った・折れた
抜歯や歯周病、外傷など。歯ぐきより下に歯根が残っている場合もあり、見た目だけでは区別できません。
歯が生える方向の異常、スペース不足、厚い歯ぐきなどが、萌出を妨げる場合があります。特に犬歯のすぐ後ろにある小さな第一前臼歯は、見落としやすい歯の一つです。歯の数を確認するために、嫌がる犬の口を無理に開ける必要はありません。
研究では、第一前臼歯の未萌出が多く確認されました

歯科診療を受けた犬69頭の未萌出歯108本を調べた研究では、第一前臼歯が85本(78.7%)を占めていました。第一前臼歯は犬歯のすぐ後ろにある小さな歯です。目立つ犬歯だけでなく、このような小さな歯が見えない場合も確認が必要です。
このグラフは、未萌出歯が確認された診療対象における歯の種類の内訳です。一般の犬全体の発症率、それぞれの歯が埋伏する確率、嚢胞ができる確率は示していません。猫のデータは含めていません。
含歯性嚢胞とは?
含歯性嚢胞(dentigerous cyst)は、未萌出歯の歯冠、つまり本来口の中に出る部分に関連して生じる、液体を含んだ袋状の病変です。大きくなると周囲の骨を吸収し、隣の歯や歯根に影響することがあります。顎の骨が著しく薄くなると、骨折のリスクも生じます。
初期には目立つ腫れがなく、食事をいつもどおり食べている場合もあります。一方、歯ぐきのふくらみ、歯の位置の変化、口を触られるのを嫌がる様子などがきっかけになることもあります。腫れの原因には歯の感染や腫瘍などもあるため、「埋まった歯があるから嚢胞だ」と決めつけないことが重要です。
2019年の後ろ向き研究では、歯科診療を受けた犬69頭の未萌出歯108本のうち、48本(44.4%)に含歯性嚢胞が確認されました。この数字は、選ばれた診療対象の「歯」を単位とする集計です。一般の犬全体の発症率や、見つかった埋伏歯が今後嚢胞になる確率を示しているわけではありません。
受診を急いだほうがよいサイン
- 当日中に相談:顔や歯ぐきが急に腫れた、強い痛みがある、出血が続く、食事や水をとれない。
- 早めに歯科相談:生え変わりの時期を過ぎても永久歯が見えない、左右で歯の本数が違う、歯ぐきのふくらみが続く。
呼吸が苦しそう、顎の形や動きが明らかにおかしい場合は、通常の予約日を待たずに連絡してください。受診時には、歯が見えなくなった時期、過去の抜歯歴、食べ方の変化がわかると診断の助けになります。
検査では何を確認する?
診察では歯の本数、歯ぐきの状態、かみ合わせ、腫れなどを確認します。歯科用レントゲンでは、見えない歯の有無と向き、残った歯根、周囲の骨の変化を評価します。必要に応じてCTなどで病変の広がりを確認する場合もあります。
正確な口腔内撮影には、通常、全身麻酔が必要です。麻酔前には全身状態や持病を確認し、必要な検査と管理方法を検討します。麻酔には低血圧、低体温、呼吸への影響などのリスクがあり、体調に応じた計画と監視が大切です。
レントゲンで嚢胞が疑われても、画像だけでは確定できない場合があります。摘出した組織の病理組織検査により、嚢胞の性質や別の病変の可能性を評価します。小さな病変は画像だけでは判断しにくいこともあるため、検査結果を組み合わせて考えます。
埋伏歯が見つかったら、必ず抜歯?
嚢胞や周囲の骨の異常がある場合
原因となる未萌出歯の抜歯と、嚢胞壁の除去が治療の基本です。病変の広がりによっては、影響を受けた隣の歯の処置も必要になります。大きな病変では、減圧してから改めて摘出するなど、段階的な方法を検討することもあります。
治療の目的は、病変の拡大を防いで顎や周囲の歯を守ることです。一方で、出血、傷の開き、隣接する歯や神経への影響、骨が薄い場合の顎骨骨折などのリスクがあります。歯の位置と残っている骨の量を確認し、必要に応じて専門的な治療体制を検討します。
明らかな嚢胞がない場合
将来の病変を避ける目的で抜歯を検討しますが、歯の位置、萌出の見込み、年齢、全身状態、処置の負担を踏まえて判断します。若齢で歯ぐきが萌出を妨げているなど条件が合う場合は、歯ぐきを処置して萌出を促せることもあります。
経過観察を選ぶ場合は、「食べているから大丈夫」と見守るだけでなく、歯科用レントゲンを含む再評価の計画が必要です。再診間隔は個別に決めます。乳歯の下に永久歯が形成されていない場合には、健康な乳歯を残せることもあるため、抜歯の前に画像で確認します。
治療後と、ご家庭での注意点
治療後は、傷の治癒に合わせて食事の硬さ、歯磨きの再開時期、遊び方を調整します。硬いおやつや引っ張り合いの遊びは、担当獣医師の許可が出るまで控えてください。腫れや出血、食欲低下が続く場合は連絡しましょう。
処方薬は指示どおり使用し、人用の痛み止めを自己判断で与えないでください。歯ぐきを押して歯を出そうとしたり、自宅で切開したりすることも避けます。再診では傷だけでなく、必要に応じて骨の回復や病変の残存・再発を画像で確認します。
よくあるご質問
乳歯が抜ければ、永久歯は必ず生えますか?
必ず生えるとは限りません。永久歯の形成の有無や向きを確認する必要があります。乳歯が残っている状態については、犬の乳歯遺残と抜歯のタイミングもご覧ください。
歯磨きで予防できますか?
歯磨きは歯周病予防に大切ですが、埋まった歯を生やしたり、含歯性嚢胞を治したりするものではありません。歯の本数と萌出の確認を、日々のケアとは別に行うことが大切です。
歯が折れたのか、もともとないのかわかりません。
写真や見た目だけでの判断は難しいことがあります。犬の歯が欠けた・折れたときの対応も参考に、診察で確認しましょう。
国分寺・小平・小金井周辺で犬の歯をご相談の方へ
国分寺ハートアニマルクリニックでは、歯の生え変わりや歯の本数、かみ合わせのお悩みをご相談いただけます。歯科専門外来は隔週木曜日です。ご予約の際は、気づいた変化や過去の歯科治療歴をお知らせください。痛みや急な腫れがある場合は、専門外来の日を待たずにお問い合わせください。
参考文献・確認資料
- Bellei E, et al.(2019)A Clinical, Radiographic and Histological Study of Unerupted Teeth in Dogs and Cats: 73 Cases (2001–2018).
- Clinical and histopathological study of 279 dentigerous cysts in 192 dogs (2012–2022). Frontiers in Veterinary Science(2024).
- Merck Veterinary Manual:Developmental Abnormalities of the Mouth and Dentition in Small Animals.
- VCA Animal Hospitals:Dentigerous/Odontogenic Cysts in Dogs.
- AAHA(2020):Anesthesia and Monitoring Guidelines for Dogs and Cats.
医学情報・参考資料の確認日:2026年10月25日。診療内容は個々の状態によって異なります。
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