犬の歯が折れた・欠けた|受診目安と抜歯・根管治療

「硬いおやつを噛んだあと、奥歯の一部が欠けている」「犬歯の先が折れているけれど、ご飯は食べている」。犬の歯の破折(tooth fracture)は、見た目の欠け方だけで治療の必要性を判断できません。歯の内部や根に問題があっても、普段どおり食べる犬がいます。

大切なのは、欠けた部分がどの深さまで達しているか、歯の内部にある歯髄が傷んでいないかを調べることです。小さな欠けでも早めに相談し、痛みや感染を見逃さないようにしましょう。

歯が折れたときに見られるサイン

  • 犬歯の先や奥歯の表面が欠けている
  • 硬いものを避ける、食べ物を口から落とす、片側で噛む
  • 口を触られるのを嫌がる、よだれや口臭が増える
  • 欠けた面に赤い点や暗い色の穴が見える
  • 歯そのものが灰色・紫色などに変色する
  • 目の下や頬が腫れる、皮膚や歯肉から膿が出る

赤い点や穴は歯髄の露出を疑う所見ですが、色だけで確定はできません。また、顔の腫れは歯の病気以外でも起こります。ご自宅で穴を針や爪楊枝などで触って確認することは避けてください。

歯が欠ける原因と内部で起こること

硬いものを噛む・強い衝撃を受ける

骨、鹿の角、蹄、非常に硬いおもちゃなどを強く噛むと、歯に力が集中します。奥歯の表面が板状に欠けることもあります。転倒や衝突、交通事故などでも歯が折れ、同時に顎や口の周囲を傷める場合があります。

歯が折れた場合と、歯周病などで歯がぐらついて抜けた場合では調べる内容が異なります。歯が見当たらない場合は、犬の歯が抜けたときの原因・受診目安もご覧ください。

表面だけの欠けと、歯髄まで達する破折

歯の表面はエナメル質で覆われ、その内側に象牙質、さらに内部に血管や神経を含む歯髄(pulp)があります。象牙質が露出すると、歯髄が直接見えなくても刺激が伝わり、痛みや炎症につながることがあります。

歯髄が口の中に露出する状態を露髄(pulp exposure)と呼びます。ここから細菌が入り、歯髄炎や歯髄壊死、歯根の先の炎症・感染へ進むおそれがあります。時間がたって目立った反応がなくなっても、「自然に治った」とは限りません。

どのくらい急いで受診すればよい?

すぐに連絡・受診

交通事故などの強い外傷/呼吸の異常/止まらない出血/口が閉じられない

当日中に相談

赤い点や穴が見える/強く痛がる/食べられない/顔が腫れている

早めに診察を予約

小さな欠けだけで元気・食欲はある場合も、深さや歯髄の状態を確認

この区分は連絡時の目安です。症状が重なる場合や判断が難しい場合は、まず動物病院へ電話でご相談ください。折れた直後に相談することで、歯を残す治療を検討できる場合があります。特に若い犬の永久歯は、歯根の発育状態も治療方針に関わります。

診察・歯科用レントゲンで調べること

診察では、いつ気づいたか、何を噛んでいたか、出血・腫れ・食べ方の変化を確認します。起きている状態で安全に見られる範囲を診察したうえで、詳しい口腔内検査と歯科用レントゲン検査を計画します。

見えている歯冠だけでなく、歯肉の下の歯根、周囲の骨、歯周組織も評価する必要があります。通常、精密な検査と治療には全身麻酔を用います。無理に口を開けて痛い部分を探ることはしません。

歯科用レントゲン検査は治療選択に重要ですが、画像だけで初期の歯髄障害をすべて否定できるわけではありません。破折の状態、経過、口腔内所見と合わせて判断し、必要に応じて再検査します。

抜歯だけ?歯を残す治療との違い

治療の目的は見た目を整えることだけでなく、痛みや感染を取り除き、快適に口を使える状態にすることです。破折の深さ、残っている歯の量、歯周病の程度、歯根の発育、全身状態などから選択します。

浅い欠け

歯髄の障害がないか評価し、必要に応じて表面の処置や象牙質の保護。診断後に経過観察となる場合もあります。

歯髄に達する破折

抜歯または歯内治療を検討。歯を残せるかは、歯根・周囲の組織・破折の範囲で判断します。

抜歯

保存が難しい歯を除去し、痛みや感染の原因に対処します。歯根が複数ある奥歯などでは、歯を分割し、歯肉を切開して処置することがあります。処置後は痛み止めと食事管理を行い、傷の回復を確認します。

抜歯には出血、傷の治りの遅れ、歯根の残存、周囲組織の損傷などのリスクがあります。顎の骨が弱くなっている場合は骨折にも注意が必要です。歯の状態と画像を確認し、処置方法を検討します。

根管治療

根管治療(root canal treatment)は、歯の内部の傷んだ歯髄を除去し、洗浄・消毒・充填などを行って歯を残す治療です。適応があれば、歯の形や機能を維持できる利点があります。

一方で、処置後もレントゲンによる定期的な評価が必要です。再感染や再破折などにより、再治療や抜歯が必要になることがあります。歯を支える組織の状態が悪い場合や、破折範囲が広い場合など、保存に向かない歯もあります。専門的な設備と技術を要するため、対応できる診療施設で適応を判断します。

歯髄を生かす治療

受傷からの経過や歯髄の状態などの条件が合う場合には、歯髄の一部を保護して生かす生活歯髄療法(vital pulp therapy)を検討します。特に発育途中の永久歯では、歯根の成長を維持する意味があります。すべての破折に適する治療ではなく、早期の評価と継続的な経過観察が必要です。

麻酔・薬の注意点

全身麻酔には血圧低下や呼吸・循環への影響などのリスクがあるため、既往歴、服薬、身体検査、必要な検査を踏まえて麻酔計画を立てます。年齢だけで一律に可否を決めるのではなく、現在の健康状態と治療の必要性を合わせて考えます。

抗菌薬で腫れが軽くなっても、傷んだ歯の内部の問題が解決したとは限りません。抗菌薬は必要性を個別に判断し、抜歯や根管治療の代わりとして使い続けるものではありません。麻酔を伴う歯科処置については、歯石除去・全身麻酔・当日の流れもご参照ください。

受診までの対応と再発を防ぐ工夫

  • 硬いおやつやおもちゃ、引っ張り合いなど、歯に力のかかる遊びを中止します。
  • 無理に口を開けたり、欠けた歯を揺らしたり、自宅で削ったりしないでください。
  • 痛い部分の歯磨きは無理に行わず、食事内容や受診前の絶食の要否は病院に確認します。
  • 人用の鎮痛薬や以前処方された薬を、自己判断で与えないでください。
  • 可能であれば、気づいた日時、噛んでいた物、食べ方の変化を記録します。写真は嫌がらない範囲で構いません。

治療後も、骨・角・蹄など硬いものを噛ませないことが予防につながります。おもちゃは硬さだけでなく、大きさ、壊れやすさ、飲み込む危険性も確認してください。歯磨きや口元の観察を、痛みや傷の回復に合わせて再開しましょう。

よくあるご質問

食べているなら様子を見てもよいですか?

食べられることだけで、痛みや感染がないとは判断できません。欠けた歯が見つかったら診察を受け、経過観察でよいかを確認してください。

乳歯なら抜けるまで待ってよいですか?

折れた乳歯にも痛みや感染が起こり、発育中の永久歯に影響することがあります。自然に抜けるのを待たず、ご相談ください。

折れた歯は自然に元どおりになりますか?

失われた歯冠が元の形に再生するわけではありません。欠けた深さと内部の状態によって、保護処置、歯内治療、抜歯などを検討します。

当院の歯科相談について

国分寺ハートアニマルクリニックでは、歯科専門外来を隔週木曜日に設けています。歯が折れた直後や痛み・腫れがある場合は、専門外来の日まで待たず、まずお電話でご相談ください。診察で状態を確認し、必要な検査や治療、専門的な診療が必要な場合の対応をご案内します。

医療情報確認日:2026年10月19日

参考文献・参考資料
  1. Bellows J, et al. 2019 AAHA Dental Care Guidelines for Dogs and Cats. 2019. ガイドライン全文
  2. Cornell University College of Veterinary Medicine. Risks from a fractured tooth. 公開年記載なし。大学の解説
  3. Krug W. Treating Endodontic Disease in Veterinary Patients. University of Illinois, 2024. 歯内疾患の治療
  4. University of Illinois. Fractured Teeth Mean Pets Should See Vet. 歯の破折と治療の解説

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